1月4日 15:44 さいたまスタジアム
後半21分、楠原のミドルシュートが外れたところで選手交代が行われる。
武州総合サイドで下がるのは、源平に両サイドバック兼センターバックとしてプレーしていた上門と和田だ。代わって、総体でも途中出場で出て来た里川直斗と蹴斗の双子兄弟とやや大柄なFWの
「おいおい、DF2枚削って、攻撃系カードばかり切ってきたな。一か八かってやつか」
一方、高踏は神田に林崎、鈴原に弦本、颯田に櫛木という交代である。
これは疲れなどを考慮した通常の交代といっていい。
武州は一度に3人を替え、フォーメーションも変わった。
ここまで来るとさすがにニンジャシステムは維持できなくなるようだ。武州総合の動きは通常のものへと戻る。一見すると4-3-3だが、両サイドに回ったのは里川蹴斗と楠原でサイドの守備というより中盤の奪い合いに参加する。実質2-5-3とも言って良い布陣だ。
新しく入った里川兄弟が走り回り、プレスをかけてくる。
「思い切ったなぁ」
佐藤は驚くが、武州は元々そういうスクランブル体制を準備していたのだろう。動きに迷いはない。
一方、交代直後の高踏は替わった選手を馴染ませる準備時間という感覚でやや様子見の気配が生じた。
結果として、22分から武州総合が立て続けに畳みかける展開が続く。
前線にいる里川直斗から替わって入った賀沢へいきなり良いパスが通ろうとするが、これは神津が何とか競り合ってシュートまで行かせない。そこからセットプレーが2度続いたが、そこも神津と稲城がカバーする。
「セットプレーを取れるようになると、源平の不在が痛いなぁ」
イケイケになって、コーナーキックはかなり取れるようになったが、武州総合は長身選手がそれほど多くない。紺谷と賀沢らが競るが、神津と櫛木を切り崩すには至らない。
もっとも、源平が奮闘したからこそ、この状況となっているわけで。
「高踏を押し切るにはもう一枚カードが必要というわけか」
佐藤は腕組みしながら思案している。自分のチームだとどうなるか考えているのだろう。
「来年はディエゴ・モラレスというカードが加わりますね」
「高踏もカードが増えるんじゃないか?」
「確かに……」
というところで、藤沖が佐藤に尋ねる。
「そういうのは佐藤さんの方が詳しいじゃないですか。地元の有力中学生の動向はどうなんでしょう?」
「ウチが逃した者としては、
「やれやれ……」
藤沖が苦笑した。
深戸学院が取ろうとしていた選手が、高踏に行くということは更に強くなるということだ。
「でも、それだけ取るとポジションがなくなってきませんかね。まあ、高踏は進学面もある学校なのでサッカーだけではないですが」
潮見の言う通り、既に高踏はチームとして完成している。
ここに一年が加わると、もちろん選手層は更に厚くなるだろうが、試合でさばききれなくなるのではないか。
深戸学院や鳴峰館にはもっと多くの選手がいるし、樫谷にしても50人以上の部員はいるが、高踏が大所帯になってどうなるかはまた別の問題ともなりうる。
「まあ、それも何とか回すような気はするな。総体はともかく、選手権では3年の受験組はいないかもしれないし」
高校サッカーはサッカーとしては集大成であるが、二週間後には共通テストが行われるなど、受験生には非常に厳しい日程だ。
陽人がこれまで、目先の勝ち負けを度外視した運用を行っている以上、3年の受験組は全員メンバーから外すということも考えられる。
「おぉーっ!」
そんな話をしていると33分に、遂に武州総合が1点を返した。
この時間帯、楠原が持ち場を放棄して始終陸平をマークしている。そのため、攻守切り替えの後の陸平のパスルートが少ない。戎がカバーしているが、後半から入ったもののやや落ちてきた。
パスが少し乱れたところを高幡が奪い取り、古郡へのスルーパスが遂に通った。
林崎のタックルも実らず、鹿海も破られて2-1となる。
「これはもしかして」
そんな雰囲気が伝わったが、ここが武州の限界でもあったらしい。
直後のプレーで楠原が外れた左サイドを曽根本が攻め上がり、稲城が受ける。
武州総合は瑞江や櫛木へのパスを警戒したが、逆手に取って稲城が反転してシュートを打った。シュート自体は枠を外しそうだったが、意表を突かれたようで戻っていた紺谷の足に当たりそのままオウンゴールとなる。
ロスタイムには中盤でボールを奪った弦本が、前線に長めのパスを送る。前掛かりの武州総合は戻ることができず、キーパー清井に先んじた瑞江が蹴り込んで4点目が入った。
そこでロスタイム3分を使い切り、笛が鳴る。
4-1。
「スコアほどの差はなかった印象だが……」
佐藤が溜息をもらしつつ、整列する選手に拍手を送る。
武州総合は高踏と正面から打ち合っていた。優勢劣勢という点では武州が劣勢だったが、下がることなく前に出て打ち合い続けた。
「神田の先制点がなければ、もっと良い勝負になったかもしれないが」
多分にラッキーな先制点がなければ、前半をスコアレスで折り返していたかもしれない。
そうなると試合は色々変わっただろう。
「でも、それを言うと総体ではそれどころでない運・不運の出来事がありましたしね」
「確かに……」
「高踏の方が強かったのは間違いないでしょう」
藤沖の言葉に、佐藤も潮見も頷いた。
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