1月4日 15:20 さいたまスタジアム
後半開始時点のメンバー交代は、高踏が園口に替えて戎。
一方の武州総合はメンバー交代がないまま、キックオフを迎えた。
スタンドで見ている愛知3人衆は交代に懐疑的だ。
「戎か……」
「ポジショニングは良いという評判ですが、源平にぶつかったら吹き飛ばされないですかね」
高踏のメンバーの中でも戎は一際小柄に見える。
もちろん、ポジショニングが優れているというのは全員が知っている。
ただ、源平のチェックは見た目以上に早い。戎がハードな中盤でどれだけ踏ん張れるのか、一抹の不安がある。
しかし、すぐにその心配は杞憂らしいと分かってくる。
「いやあ、戎は早いなぁ」
佐藤が感嘆の声をあげた。
中盤でしきりに首を動かし、細かくポジションを変えてスペースを作り、相手を追い込む。
「前半の園口が悪いというわけでもないけど、戎が入ると動きに一つアクセントが入る印象があるね」
「ただ、園口と違ってボールを持った時の効果的な動きはありません。陸平より長めのパスも出せるというくらいじゃないでしょうか」
藤沖の言う通りで、戎はボールを持っても90パーセント以上ワンタッチ以内でボールを離す。
これは陸平とほぼ同じで、違いは陸平より若干リスクのあるパス……縦パスやワンツーがあるだけだ。効果的な崩しには参加できない。
「稲城と陸平は攻めで決定的な動きは少ないし、颯田がちょっと不調気味。最終ターゲットを瑞江に持っていく形を作りたいけれど、それは武州サイドも分かっているだろうからな」
武州は前半よりも中盤で劣勢になっているが、といって中盤での取り合いを放棄しているわけではない。若干下がりつつも古郡を活かそうという形は捨てていない。
「高踏が攻めあぐねると、ワンチャンスあるかもしれない」
佐藤がそう言った次の瞬間、試合が再び動いた。
中盤で稲城がボールを奪い、真ん中にいた戎に送る。
源平と高幡が動きを制約しようと詰めてくるが、戎はパスに触れずにそのまま走り出した。
「おおっ!?」
予定したパスを受ける間がなくなったことで源平と高幡が一瞬遅れた。鈴原がワンツーを戎に返して、戎から斜めのパスが瑞江に通る。
「チャンスだ!」
前半はパスの出し手になっていた瑞江が初めて、中盤前方のスペースで前を向いた。
スピードをあげて紺谷をかわすと、前にいた井上もかわしてゴール前に切れ込んだ。
中央に絞ってくるセンターバックの2歩前を走り、GK清井が出て来たところを冷静に流し込む。
『瑞江が決めたー! 昨年のこの大会得点王の瑞江達樹! 代表疲れでこの試合が大会初出場となりましたが、しっかりゴールを決めました。後半9分、高踏高校が2-0とリードを広げました!』
佐藤が自らの後頭部をぺしっと叩いて、頭を下げる。
「いやはや、御見それしました、と言うしかない。あれだけ目まぐるしく動く中盤でパスをスルーなんていう選択肢があるとは」
潮見も呆気に取られている。
「本当ですよね~。もし取られたら大ピンチになるのに。そこまで見えてポジショニングしているんですかねぇ」
「全くです。彼にはトンボのように目が3万個くらいあるのかもしれませんね」
藤沖もお手上げという様子だ。
残り30分で2点差。
「武州はいよいよきつくなったが、どうするのかな?」
佐藤が視線を武州総合ベンチに向ける。
控え選手がアップを進めているが、緊急に出すという様子はない。
「うーん、あまり急ぐ様子はないな。このままで良いのかな?」
「むしろ高踏の方が控え選手のアップを進めていますね」
藤沖の言う通り、高踏ベンチでは司城、加藤、篠倉、櫛木といった前線でプレーできそうな面々がアップを進めている。
「天宮は3点目を取りに行くようですね」
「そうするだろうな。そろそろ源平も落ちてくるだろうし、攻め手が多いのはむしろ高踏だ。武州はこのままだとじり貧になってしまう」
「頼みの高幡と楠原もかなり動いていますしね」
動いているだけではない。
戎が先程スルーを見せたこともあり、そのチェックはより慎重にならなければならない。その分、より確認しなければならないゾーンが増え、目と頭に負担をかける。
その部分で特に走らされているのが代表組でチームの中心でもある高幡と楠原の2人だ。
「まあ、あの2人は代表でもかなり動けることを見せていたから、まだ大丈夫だとは思うが」
「古郡はどうなんですかね? 高踏の瑞江だけ以上に、攻めの可能性は古郡にしか感じませんが」
「うむ……」
古郡も攻撃になった時はもちろん、守備の時もかなり走っている。
古郡の足が止まってしまえば、現状、武州総合は可能性がなくなってしまう。
続く10分は中盤での奪い合いが続き、大きな動きはない。
後半20分が経過、残り20分という時点で両チームとも交代要員3人がサイドラインに並んでいる。
両チームとも勝負をかけてくるようだ。
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