1月4日 14:57 さいたまスタジアム
控室に向かいながら、陽人は後田と結菜と話をしていた。
「欲を言えばもう1点欲しかったけど、リードはしているし悪くはない」
「そうねぇ。ただ、林崎さんがいないから最初のパスがちょっと遅いように感じたわ。だから源平さんが近くにいたのだろうし」
結菜の言葉に後田も応じる。
「源平さんが中盤でドドンと居座っていて、そこに詰められる隙があるよね。あれをすり抜ける速さは欲しい。大地か戎がいてくれたらよいけれど」
中盤については同じ考えだ。
神津や曽根本の起点となるパスが悪いわけではないが、林崎や多少劣るとはいえ道明寺が出すものと比べるとやや劣る。もっとも、今までそのポジションで起点の役回りをしたことが少ないので、慣れていくしかないのもあるが。
「颯田さんが後半も精度を欠くとなると、ここにも入れたいところだけど」
結菜が「うーん」と口を尖らせる。
ポジション的には司城の方が近いが、彼も割合外すイメージがある。シュートの正確性は高いはずなのだが、高踏ではやはりやることが多いせいか、ゴール前に行った頃には頭がへばっていてイメージができていない印象がある。
シュートの正確性だけなら浅川が高いが、それ以外のところでまだ少し物足りない。
本来ならば、両方を備えた戸狩が解決してくれるが、もう二、三日様子を見てほしいと医師からは言われている。この試合で使うわけにはいかない。
「まあ、源平さんは後半のどこかで退くとは思うけどね」
「確かにね」
また結菜と後田の意見が一致する。
もちろん、陽人もその見解自体には同意する。
源平は100キロの巨体でずっと走り回っている。消耗は60キロや70キロの選手より遥かに大きいはずだ。仮に並以上のスタミナを有していたとしても、後半半ばくらいまでがいっぱいだろう。
「ただ、その頃にはこちらもよりスペースが出来ていそうだ。単純に相手が疲れるのを待つだけなら五分五分になるし、対応策も考えてはおきたい」
今後も同じようなやり方で大型選手を入れてくるチームがあるかもしれない。毎回、相手の疲れを待つだけというのも芸がない。
「ヨーロッパのトップだとあのくらいのデカい面々ばかりがいるわけだから凄いよねぇ。こちら側にいる選手も似たような化け物ばかりになるんだろうけれど……」
控室に入り、選手達が揃うと陽人は話を始めた。
「前半だけど、全体としては良い出来だった」
これは慰めではなく、本音である。
「最後の部分で詰めが甘かったことと、源平さんのところをうまくかわせていないことがある。前者は直そうと思って直せたら苦労はしないが、後者は何とかしたい」
「悪い……」
シュートを外した颯田が頭を下げるが。
「別に五樹が悪いわけじゃない。シュートが入らない時はあるものだし、試験明けということもあるし。繰り返しになるけど最後の詰めに関してはそこだけ直るものではない。全体の動きを改善していって考えるものだ」
全体、という言葉に何人かの視線が林崎と戎の方に向かった。
選手達も現状から更に改善するにはこの2人なのだろうという理解があるようだ。
実際、手をつけるのはここである。
ただ、誰に替えるべきか。
バックラインはサイドからの攻撃もできているし、相手ボール時の対応も問題がない。
前線より前では、本人も認めているように颯田は決めるべきところを決められていないが、そこまで関与しているという証拠でもあるし、守備の貢献は高い。
瑞江と陸平、稲城は外せないとなると、鈴原か園口となる。
「耀太のところに戎を入れる」
「えっ、俺?」
園口は意外そうな顔をした。
鈴原は三試合連続出場なのに対して、園口はこの試合から初出場である。疲労度からすると鈴原が先に退くのではないかと思えてくる。
「今のところ2人の貢献は同じくらいだ。明後日があると考えると、耀太にはそこに備えてほしい」
この試合では左サイドバックが出来る面々が、曽根本も神田も含めて全員出ている。特に曽根本はこれまでの二試合にも出ている。
中一日で準決勝があるから、そこに向けて左サイドバックが出来る者を残さないといけない。三戦連続の曽根本が難しい、となると神田か園口のどちらかになり、戎と替えるなら園口となる。
また、鈴原はここまで出ているから最後まで頑張ってもらって、準決勝は完全休養させた方が良い。
(この試合も大事だが、できる範囲では次も考えておかないといけないからな……)
短期決戦の苦しさである。
交代を決めた後、更に後半の指針を出す。
「後半もやることは変わらない。相手はサイドがやや手薄だから、そこに人数を集めて切り崩していく。そのうえで後半の時間が進んでも展開が変わらないようなら前線の選手を入れて、局面打開を図ることになると思う」
陽人は前めの選手達……篠倉、櫛木、加藤、司城、浅川らに「準備しておくように」と指示を出した。
「慌てることはない。しっかりと行こう」
陽人が最後に手を叩いて、全員が後半へと気持ちを切り替えていった。
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