1月4日 14:41 さいたまスタジアム
前半30分を経過した。
スコアは1-0のままである。
「高踏の方が攻めてはいるが、武州も正面で持ちこたえているのはさすがだな」
支配率は6:4で、チャンス創出に関しては3:1ほどの差がついている。
ただ、これまでほとんどのチームが手も足も出ずにやられていたことを考えると、正面から打ち合って試合になっているだけでも特別なことのように見えてくる。
そして30分を過ぎ、どちらも若干疲労が出て来ている。目に見えるほどではないが、これが進めば古郡の快足が活きるシーンが出て来る可能性は高い。
「問題は、武州総合は後半も続けられるか、だな」
高幡と楠原はもちろん、武州総合はレギュラーメンバーが全員出ている。残りのメンバーももちろん優秀な選手ではあるが、スタメン組と比較すると個性が落ちる。
一方、高踏もベストメンバーではあるが、違う選手に別々の個性がある。
時間が経過すれば、高踏の方が有利になる。そういう印象がある。
「武州総合としては、大きな源平をチャンスメークに使いたいが……」
1対1の当たり合いではほぼ負けないうえに、見た目以上にスピードのある源平が前線で受ける側に回れば強い。
しかし、源平は中盤の奪い合いの方で機能している。早い展開の中でも源平の周囲は近寄りづらい。高踏の選手が中盤で源平にぶつかってしまって転倒し、一時的に中盤の人数が減るシーンもある。
「彼のスタミナがどこまでもつかも、重要な要素ですね」
大柄なだけに疲労は早いだろう。
源平を替えてしまうと、中盤の重しがなくなり、高踏が更に自由に回せる雰囲気がある。
『またも中盤で激しい取り合いが始まる!』
『両軍、まだまだ続きますね』
実況と解説は、試合開始直後こそ選手名を呼んでいたが、めまぐるしいスピードで奪い合いをしているしおまけに選手の配置が両チームとも頻繁に変わる。
間違えたり、混乱したりするシーンが散見された挙句、何かしらの変化が起きるまでは口にしないという方法をとることにした。
もっとも、テレビはまだマシだが、ラジオ実況でも同じことが使われたため、「ラジオなのにアナウンサーが何も言わないのはどういうことだ?」とハーフタイムに抗議が入ることになるのだが、それはまた別の話である。
「おっ? あー……」
佐藤が思わず声をあげた。
武州総合側に流れそうになったが、そこからのボールが陸平に阻まれる。
「陸平が止めるのは何度目なんだろうな」
「そうですね。フォーメーションが固定なら彼の居場所を避けるという手がありますが」
陸平の読みとボール奪取が群を抜いていることは誰でも分かっている。
であるから、昨年までは彼を避けるような形でボールを回そうとする方法を採用できた。
しかし、目まぐるしくボールも配置も動いている中で、陸平のポジションも変化している。そのため、彼の居場所がどこにあるのか感覚として捉えるのが難しい。確認しようと顔をあげるなどして僅かなタイムロスがあった場合には、稲城や颯田など別の者がプレスをかけてくるからだ。
「いっそ、6分の1の時だけに賭けて、その他は諦めるという手はどうだろうか?」
「スライドする一つの形だけ攻め手を決めて、残りは何とかしてくれ、というような形ですか?」
「試合開始直後の形でけしっかり対策するというような形だな」
「高踏のスタメンと並びが最初からはっきり分かっていればできるかもしれませんが」
「それもそうだな……」
佐藤は無理を言ったということを理解した。
対策という点で、ニンジャシステムと同じほど厄介なのが、高踏の選手起用の不可解さだ。
同じメンバーを二試合連続で使ってくるということはまずありえない。
選手も違うし、並びも異なる。
この試合にしても、前方に園口が入って、更に曽根本と神田と左サイドバックが出来る選手が入っているというスタメンを予想できたものはほとんどいないだろう。
「そういう点でも武州はよくやっていると思いますよ」
「確かになぁ」
「あと、対高踏という点では、今はともかく今後も同じやり方を続ける保証がないですからね。スライドじゃなくて、ランダムに位置変更することもあるかもしれませんし」
この一年でニンジャシステムを作ってきた高踏である。
来年、それを更に改造したり、また別のことをやってきたりする可能性は大いにある。
「……やれやれ。いっそあれか。高踏の近くにサッカー部を住まわせて、近くで練習できるよう頼むしかないか」
「ひょっとしたらそれが一番良いかもしれませんね」
高踏指揮官の天宮陽人は秘密保持者というわけではない。
頼めばオープンにしてくれるし、邪魔しなければ近くで練習することも可能だろう。
高踏高校の山上には旧ゴルフコースの敷地がある。資金があれば、その敷地を練習場に改造するのが一番早いのかもしれない。
そんな冗談を言い合っているうちに前半が終わった。
1-0。後半への興味を繋いだまま、ハーフタイムに入る。
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