1月4日 13:55 さいたまスタジアム
三が日も終わり、正月明けというムードの中、高校サッカーはいよいよ準々決勝の四試合が行われる。
大会期間中、共に行動をしている佐藤、潮見、藤沖の三人は朝から会場となるさいたまスタジアムにやってきていた。
通常、埼玉県のメイン会場は駒場スタジアムだ。しかし、今回は高踏に武州総合という関心の高いチームがいることで、駒場では収容しきれないと判断したのだろう。初日からさいたまスタジアムの使用比率が大きい。
ここまでのところ、主催側の判断は正しいといえた。
さすがに超満員はないが、2回戦、3回戦とも4万人近くまでは入っている。
それを受けての準々決勝開催。
3人は着いた時点で絶句する。
「うわぁ……」
「これはこれまで以上だな」
まだ午前10時であるが、既に行列が凄い。
「これは満員になるかもしれないな」
高踏と武州総合は第2試合だ。
第1試合の時点で、既に3回戦の人数を超えそうなのだから、第2試合の時点では満員になるだろう。
会場内の雰囲気も「武州総合はどこまでニンジャシステムをやってくるのか」、「高踏は戦えるのか」というような話でもちきりである。
「浜松学園と高良学院は大変だな」
第2試合の話題ばかりの中で試合しなければならない第1試合の両校は気の毒ではあるが。
「それでも、これだけの大観衆の中でプレーできるのは貴重な経験だ。ウチの選手も一度くらいはこういうところに立たせたいものだよ」
潮見がしみじみと言う。
鳴峰館がもっとも大観衆の中で試合をしたのは、昨年の選手権県予選決勝だろう。
この時は「深戸学院に勝った高踏とはどんなチームだ」と、多くの観客が集まっていた。ただ、高踏も今ほど人気があったわけではない。おそらく1万人くらいだろう。
「今年の県予選決勝もそのくらいではないかな」
佐藤が思い出しながら語ると、藤沖が補完する。
「代表組がいませんでしたからね」
今年の県予選決勝では、高踏は代表チームが全員オーストラリアに行っており、控えチームと1年という編成だった。そのため、そこまで関心は高まらずにやはり半分くらいの入りだった。
5万人の観衆の中でプレーできるというのは貴重な経験だ。
第1試合が始まった。
2年連続の準決勝入りを狙う浜松学園と、同じく準決勝進出経験のある高良学園だ。
前半から実力チーム同士の好ゲームが展開されるのだが、この試合にはU17日本代表メンバーが出ないこともあり、どうしても準々決勝の中で一番関心の低い試合になってしまう。
「ここの勝者が北日本とやるわけだが……」
佐藤がタブレットを開く。北日本に関する記事が載っているが、「非公開練習」という言葉ばかりだ。
「高校サッカーでずっと非公開というのは中々異常だ。何かあるのだろうか? あるいは、あると見せかけて去年同様に徹底的に守備的に来るのだろうか?」
「いや~、分かりませんね」
「それはそうだ」
佐藤も答えを求めていたわけではない。実際に試合……おそらく高踏と試合するまでは分からないことである。
試合は後半25分にあげた先制点を高良学園が守り切り、1-0で勝利。
浜松学園の2期連続準決勝はなくなった。
いよいよ第2試合が始まる。
この頃にはスタジアム内に空いている席は見当たらない。通路などを移動する観客も多いので、席数以上の人がいるのではないか、とも感じられる。
「いやあ、壮観だな」
「本当です。応援スタンドは武州総合が元気ですね」
潮見の言う通り、両チームの応援スタンドは対照的だ。
武州総合側は学校からの応援団と吹奏楽部がかけつけてきていて、試合前から演奏がなされている。一方、高踏側は学生の姿は少ない。主に現地のOBやら関係者がメインといった様子で、静かなたたずまいだ。
「去年もそうでしたが、3年生は2週間後には共通テストですからね。サッカーに限らず、とても応援のためにどこかに駆けつけることはできません」
「……というと、高踏サッカー部も来年は3年が出てこないということがありうるのか?」
「何人かはそうなるかもしれませんね。ただ、だからといって弱くなるかというとそうでもないでしょうが」
「まあな……」
両校が出て来て、試合前の練習を行っているが、どちらもシステム練習などは当然していない。
試合でどういうことになるかは分からない。
緊張と不安が漂う中、場内アナウンスが響き渡る。
『ただいまより、準々決勝第2試合のスターティングメンバーを発表いたします。白のユニフォーム・埼玉県代表・武州総合高校』
GK:①清井四郎
DF:④紺谷勝也、⑤井上正丈、⑮和田武士、⑰上門大輝
MF:⑥徳宮駿、⑦石倉勝旦、⑩高幡昇、⑪楠原琉輝
FW:⑨古郡穂積、⑱源平和登
『続きまして、青のユニフォーム・愛知県代表・高踏高校』
GK:①鹿海優貴
DF:②曽根本英司、⑪立神翔馬、㉕神津洋典、㉘神田響太
MF:⑥陸平怜喜、⑨園口耀太、⑳鈴原真人
FW:⑤颯田五樹、⑦瑞江達樹、⑧稲城希仁
「どっちもレギュラーが出て来たな」
「ですが、高踏はディフェンスラインがちょっと変ですね。神津はともかく、もう1人のCBがいないような。3バックでも敷くんですかね?」
藤沖が不思議そうにメンバー表を眺めていた。
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