1月4日 16︰42 ウェストミンスター
日本時間1月3日深夜。
ウェストミンスターはホーム・ゴドウィンソンスタジアムにソレントFCを迎えた。
イングランドのプレミアリーグの年末日程はたてこんでいる。ボクシングデーから新年に至るまでは伝統的に過密日程が組まれており、今年も例外ではない。
日程が過密になると当然必要とされる選手も増えてくる。ウェストミンスターもその例に漏れない。
新年最初のこの試合では、背番号52をつける星名太陽が初めてベンチ入りをしていた。
16歳台で出場したプレイヤーの多いこのチームでは、仮に出場できたとしても歴代トップ10にも入らない。また、今季は23歳台の史上最年少のスタメン記録も持っている。若手の出場が目立つが、それでも17歳というのは十分に若い。
少なくとも、日本人としては最年少記録を樹立することになる。
おあつらえ向きに、試合は前半でウェストミンスターが2点を取り、後半に入っても20分までに更に3点を追加し、5─0とリードを広げていった。
こうなると主力をなるべく休ませたい。
後半32分、シェルダン・サンチェスに替わってタイヨウ・ホシナの名前がコールされる。大きな拍手を受けて星名が入った。
既に試合は90%以上決まっているが、ホームの後押しを受けてウェストミンスターは攻め続ける。
『オーケー、右サイドでホシナがボールを受けそうだ。ヤングガイは何をする? 中へ切れ込むぞ。一人かわして折り返したところにドナーだ! 17歳のワールドカップウィナーがカール・ドナーのハットトリックをお膳立てしてウェストミンスターは6点目!』
『タイヨウはワールドカップから帰って以降、アンダーカテゴリー3試合で2点4アシストだ。その勢いそのままにいい動きをしているね』
『ジョージ、ウェストミンスターの70人いる選手の中で世界一経験者は彼しかいない。ちょっと寂しいですね』
『これからどんどん取るよと言いたいが、ドイツ野郎がスリー・ライオンズを指揮するのでは心もとないね。逆にジャパンは絶好調だし、凄いサッカーをしている。ホシナが2つ目、3つ目を取るかもしれないな』
『今度は右サイドでジョンソンが持ち、ドナーからスルーパス。おおぉ! 今度はドナーからホシナだ! ホシナは出場8分でゴールにアシストも記録!』
『素晴らしいね。タイヨウのこういうプレーはみんな大好きだよ。次も見てみたくなるね』
解説のジョージ・イェールの小気味いい解説も受け、観客がやんやの喝采を星名に送る。
試合は8─0というウェストミンスターの圧勝で終わった。
立役者は山程いる。しかし、話題性と期待もあるのだろう。試合後のインタビューを星名も受けることになった。しかも4得点の中心選手ドナーに続いての番だ。
『タイヨウ、ジョージだ。初出場に初ゴール、おめでとう』
『ありがとう』
『緊張はしたかい?』
『全然してませんよ。3─0になった時から、早く出してくれとウズウズしていたくらいです』
横にいるドナーが「3日後は俺に替わって出場だな」と茶化している。
ジョージが質問を続ける。
『君は世界一になってから大きく2つ変わったと思う。まずプレーに無駄がなくなった。そして、通訳を使わなくなった。世界一になると言葉も分かるようになるのか?』
ジョージの冗談めいた言葉にファンが楽しそうに笑う。
『そんなことはありません。今までは全部伝わるか不安だったから通訳にお願いしていました。ただ、自分がプレーをするのであって通訳がプレーするのではありません。会話にしても、プレーにしても自分がミスした方が次に改善できると思うようになりました』
『今日はプレーも会話もミスがなかったね。いや、会話はちょっと不満かな。そんな上品な言葉はウェストミンスターには似合わない』
『今後努力しますよ』
『オーケー。でも、俺もファンも見たいのはまずナイスプレーだ。多少上品でも良いから、試合の活躍を見せてくれ。言葉は無理しなくていいよ』
『オーケー』
星名がサムアップをして、そこで話が終わり。
星名も、周囲もそう思った。
しかし、ジョージは話を続けた。
『世界一の件について聞きたいけど、あの勝利で君は何かが変わったように見える。君自身はどう思っているんだ?』
『あのチームは「こんなことアリか?」と思えるようなことまでやっていました。自分もどんな状況でもできるプレイヤーになりたいと思いました』
『そうだ。確かにタイヨウも以前よりプレーの予測と準備が広がったように思った』
『まだまだ足りません。あのチームのメンバーは前線からCBまでやっていました。自分ももっとトータルプレイヤーにならないといけません』
『じゃあ、次はサイドバックでもプレーしてくれるかい?』
ジョージが笑いながら尋ねると、星名も苦笑した。
『それはエウジェニオ(監督)に聞いてください』
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