1月3日 15︰22 和光市内宿舎
武州総合戦を翌日に控え、高踏高校は午前中に荒川河川敷で調整を行い、午後はホテルへと戻った。
その様子を見た報道陣は「試合に出ていない主力組はまだ軽い調整で、試合に出ないのかもしれない」と渋い顔をしている。
実際はその逆で、合流直後に厳しめの調整をしていたので試合前日にまでしっかり調整する必要がないだけである。
とはいえ、試合に出られる代表組は戸狩を除いた8人で空いているポジションもある。
ここに誰をいれるか、という問題はある。
参考になるかならないか分からないが、前日のうちに武州総合のここまでの試合を確認した。武州総合もここまでは強豪のいないブロックであったために、楠原、高幡は共に60分程度しか出場していない。
その他の源平、古郡も初戦は出ていたが、2回戦3回戦は欠場している。
布陣も全く違うだろうし、ニンジャシステムを使ってくるという高幡の発言もあるため、ますますアテにならない。
ここまでの試合は参考にならないと見るしかない。
ちなみにニンジャシステム同士の試合になる、ということについては3回戦後に武州総合の監督仁紫権太がはっきりと発言している。
「もちろん高踏さんほど完璧なものではないが」と留保はつけているが、そこまで言った以上、やらないということはありえないだろう。
間違いなくやってくるはずであるし、それに伴ってサッカーファンの関心も高まっているようだ。
「完全にできるのか、制限されたものなのかどうかはわからないが」
陽人が見通しを口にする。
「基本的に中央はかなり厳しく圧力をかけてくると思う」
「……確かにそうだよね」
高踏のレギュラークラスを相手にした場合、相手はサイドを自由にさせて中央を固めるというパターンが多い。ピッチ全部で対抗することは不可能であると考えて放棄をし、中央の狭いスペースでは隙を作らず、特に瑞江を自由にさせないというものだ。
「颯田さんがいるから、これまでよりは通用しないと思うけど」
結菜のいう通り、昨年の高踏はことゴールの脅威という点では瑞江と戸狩が主で、あとは立神が続くところであった。
しかし、ワールドカップでMVPと得点王をとった颯田がいる。中央を固められたときに颯田が角度のないところからでもシュートを打つという形がある。
相手はそこを脅威に見るはずだが、陽人には不安もある。
「颯田は好不調の波が大きいからな……」
颯田はシュート技術が図抜けているから点を取っているわけではなく、数多く打つ結果、点も増えているところがある。
代表では非常に枠内への確率が高く覚醒したと見ることもできるが、偶々調子が良かっただけと見ることもできる。
颯田がシュートを外し続けることを想定した場合、どうするか。
「サイドの深いところで脅威になる存在がもう一人ほしいけど、どうだろう?」
「となると、神田君?」
「やっぱり響太になるかな」
左サイドバックの神田響太は小学校中学校と陽人と同じで、後輩の中ではもっともよく知っている存在だ。
昨年の全国出場が決定した頃から、戦術の話をしていたため、1年の中でもっともコンセプトと戦術のことを理解している。
秋まではまだ体力がついていなかったこともあり、準エースの園口や堅実極まりない曽根本の壁に阻まれていたが、このところはトレーニング効果か走力もあがり、十分使いうる存在となってきている。
とはいえ、と後田が懸念を口にする。
「いきなり武州総合相手に使って、大丈夫かな?」
「去年の今頃は、俺も含めて弘陽学館戦で使うしかなかったわけだし、甘えたことをいうんじゃないよ、ということだ」
「確かに……」
「相手が別の考えを持っていたらまずいかもしれないけど、せっかくだからサイドバックができる人間を四人並べてみよう」
ニンジャシステムを採用する以上、どちらのサイドを優先するという考えは中盤より前ではない。全員がそれぞれのポジションにつくことになるからだ。
ならばサイド重視ということができないかというと、バックラインでは調節ができる。
代表ではそこまでやらなかったが、ディフェンスラインは回しはしないものの、当然どのポジションでもできるような形で練習をしている。
ジュニアユースで右サイドバックもプレーしていて、元々どこでもできる神津はもちろん、サイドバックが本職の曽根本もセンターバックでプレーすることが可能である。
「スリーバックでニンジャシステムを試してみるとか、車懸りみたいなのはまだまだ早いけど、サイドバック四人は一回試してみよう」
「何もライバル相手に試さなくてもいいのに」
後田は呆れたように肩をすくめた。
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