12月29日 14:23 荒川河川敷・練習場
12月29日。
前日の開幕戦に続いて、大会の一回戦が開催される。
一回戦をシードされている高踏は、荒川沿いの河川敷で試合時間も練習していた。
目立つのは代表に行っていた選手達の練習がかなりハードなことだ。
外から練習を見ている者にとっては本番モードに見え、「2回戦では彼らが出て来るのかな?」という期待を持つことになる。
しかし、実際には逆の調整だ。
「今日と明後日、負荷をかけてその後二日軽めの調整にして、4日に照準を合わせる」
全く体を動かしていないわけではないが、補講と試験でかなりコンディションは落ちている。そのため上げるために一度強めの練習をしなければいけないが、強めの練習をすると休養が必要になる。
結果的にある程度調子をあげて臨むことができるのは4日。
準々決勝あたりとなるだろう。
それまでは短い時間でどうしても流れを変える必要がある場合にのみ起用されることになる。
昨日夕方に合流した颯田も、練習では活発に動いている。
再試験でうっぷんなども溜まっていたのか、川まで届くほどの全力シュートも放っている。
14時。試合が開始する時間になると、河川敷の端末をテレビに繋いで武州総合の試合にセットした。
現地観戦組としては卯月と辻、高幡と末松が出かけていて、昼の試合からチェックしているが「ニンジャシステム同士の対決」と言っていた武州の試合はやはり気になる。練習しながらでもチェックしたい。
しかし、ニンジャシステムに関しては開始前から期待を裏切られる。
「高幡さんも楠原さんもいないじゃん」
スターティングメンバーに代表2人の名前がない。
もっとも、武州総合も中核2人を使わないまま全国まで乗り込んできている。この2人がいなければ勝てないということはないだろう。
試合が始まると、武州総合は前から出ていく。
やはりニンジャシステムではない。
ただし、前からボールを支配し、早く回している。高踏と似たような戦い方をしており、インターハイの時とは全く違うように見えた。
相手は後ろに下がって、カウンター重視という構えだが。
「あれ、そういえば?」
結菜が武州の前線に構えている大柄なFWを見て声をあげた。
これまで体の大きさゆえにスーパーサブとして使われていた源平和登がスタートから起用されている。夏に見た時よりも若干痩せているように見えるが、それでも最前線の存在感は絶大であり、彼の付近にボールが出るとほぼ確実にシュートになる。
「後ろに人数をかけてカウンター……と行きたくても、源平さんくらい大きくて強いと中々取れないよね」
といって、源平に注意を向けると、快足の古郡が活きる。
14分、内から右寄りに構える源平にDFがつられたところで一気に左サイド側に走り込んだ古郡にクロスが通った。そのまま押し込んで早くも先制する。
「源平さんがしっかり動けるとなると、中々脅威ではあるな」
このあたりで陽人も試合を観察する。
元々巨体だが走れるというのが源平の強みで、前線からのチェイシングも怠らずにやっている。
「この人もニンジャシステムに対応できるのかな?」
「どうだろうな……。プレイヤーとして不安があるというより、大きいから膝が不安という部分に問題がある人だから普通にできるのかも」
陽人は到着した日に、結菜達が高幡から「準々決勝ではニンジャシステム同士の試合」という話をされたことを聞いている。
あまり気にしてはいない。
むしろ「いずれやってくるチームがあった方が良いのではないか」くらいの感覚でいる。
ニンジャシステムが怖いと守備ばかりされても、面白みがない。
20分過ぎにはセットプレーから源平がそのまま押し込んだ。
これで2-0。ここから相手が追いつくことは難しそうだ。
試合の流れがある程度見えたところで、宿舎に残っている真田から電話がかかってきた。
『明日は練習に行くのか?』
「そうですね。軽めではありますが、練習には行きます」
『夕方に大会公式の方が取材したいって。全チーム回っているって言うから、断る理由もないし入れておいた』
「……分かりました」
承諾すると、様子を見ていた結菜がにんまりと笑った。
「取材?」
「ああ」
「まあ、仕方ないわよね。昨年は一年ばかりの変わったところくらいの注目だったけど、今年はワールドカップもあったから一番注目されているわけだし」
「……それは理解しているけどね」
「別に大丈夫よ。兄さんいなくても、後田さんと私達で見ておくから。一日中話をして、半年分くらい話してきたらいいんじゃない?」
毎日少しずつ話をすると億劫に感じる。
特定の日にまとめて話をして、残りの日に来させないほうが楽なのではないか?
「残りの日に絶対来ないならそれでもいいんだが、どうせ試合が終わったら話があるだろ?」
「それもそうか」
「おまえがスポークスマンとして出ても、それでも構わないんだが」
結菜の方が調子ものであるし、テレビが喜びそうなことを言いそうである。
「それでもいいよ」
「いや、無理だろ」
結菜は本気になったが、相手が応じるとは思わない。
改めて「……去年やワールドカップは楽だったなぁ」と思った。真田や峰木が面倒な部分をやってくれていたのだから。
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