12月15日 13:30 木曽川公園競技場

 12月15日。


 この日からプリンスリーグへの昇格をかけた戦いが二日続けて行われる。


 代表日程も重なりながらもどうにかリーグ戦を2位で終えた高踏は、岐阜県1位の上濃理科大付属と対戦することになる。


 しかし、ここに来ても代表日程に祟られる形となり、補講と追試でほとんどの者は来ない。


 監督の陽人とコーチの後田すら来ていない状況である。



 今年のプレーオフ開催地は岐阜県であり、場所は岐阜県木曽川公園のグラウンド。


 しかし、距離的には高踏の方が遥かに近いうえ、やはり注目チームということで観客も高踏サイドが多い。


 その中には深戸学院の佐藤孝明、鳴峰館の潮見徹、樫谷の藤沖亮介の3人の姿もあった。


「記事で見ましたけど、U17の原野が転入するんですって?」


 藤沖が佐藤に問いかける。


「いいですねぇ。補強が自由にできるところは」

「深戸学院から誘ったわけじゃない。本人がどうしても来年は高踏と試合をしたいというから要望に応えただけだ」


 悔しかったら、来てもらうだけのチームになれ、というような物言いである。


 それが出来たら苦労しないよ、2人はブツブツ言いつつも、話題を目の前に移す。


「秋以降主力を見たこともないが、この試合も主力抜きになるのか」


 佐藤が口を”へ”の字に結ぶ。もちろん、三尾日報の「補講と追試で出られない」という記事を見ているので驚いてはいないが、それでも首を傾げている。



 その高踏のスターティングメンバーは1年が主体。


 GK:水田

 DF:曽根本、石狩、神津、浅川

 MF:弦本、加藤、鈴原

 FW:司城、櫛木、戎



「このメンバーでも勝ててはいるんだよな」


 佐藤の言葉に、藤沖が目を見張る。


「あれ、最終戦見ていないんですか? このメンバーでもかなり厄介ですよ。で、一方の上濃理大付属はベストメンバーぽいですね」


 藤沖が答えるが、さすがに隣県のチーム状況までは分からないようで、過去数試合のメンバーと照合しての発言だ。



 試合が始まり、数分もすると会場からどよめきが起こった。


 5分に司城が弦本のスルーパスに反応して先制ゴールをあげたあたりで、スタンドからひそひそ声が起き、上濃理大付属側が一斉に青くなる。


「まさか……、彼らも?」

「そうですよ。最終戦でもやっていましたよ、ニンジャシステム」


 前線の6人が一つずつポジションを移している。


「代表では稲城と陸平、颯田と瑞江を対角線に置いていましたが、このシステムでは戎と弦本、加藤と司城を対角線に置いているようですね」


 言っている間に、加藤が1人かわして2点目をあげた。


 上濃理大付属はBチームが使うことを想定していなかったのだろう、哀れなほどに大パニックを極めている。


 9分に司城が再度決めると、彼らは三週間前のスペインと同じ選択をとった。全員総出で後ろを固めて、それ以上の失点をしないという方針である。



 佐藤がお手上げだと両手をあげて、腕組みをする。


「これ、何か対策があるか?」

「ないですねぇ」、「同じく」


 後輩2人ともに同じくお手上げという態度を示した。


「やってくるものだと悟りを開かない限りは、どうしても慌ててしまって相手のフルスピードに備えてしまうことが目に見えてしまうんですよね。そうなるとどうしてもミスをしてしまう」

「……悟りを開くか、確かにそうかもしれない」


 ボールとスペース、そして人のみを考える無我の境地。


 そこまで達しないことには対処ができないだろう。



 前半を4-0で折り返し、ほぼ勝負があった。


 スペインの時の日本と同じく、相手が引いていることで体力温存ができたこともあり、後半も積極的に仕掛けてくる。


 下がってはいるが気力が折れたのだろう、20分以降に5点目、6点目と立て続けに入った。


 高踏はその時点でどんどんメンバーを変えていく。曽根本に替えて神田、石狩に替えて神沢、櫛木を聖恵に交代させた。鈴原以外は全員が1年である。


「選手権も見越しての采配ということなのかな。リーグ戦最終戦しか出ていない聖恵まで起用してくるのは」


 藤沖が独り言めいて言い、佐藤と潮見も頷きかけた。



 43分、高踏が中盤で不用意にボールを失った。そこから上濃理大付属がカウンターを敢行して、1点を返した。


 とは言っても、時間も時間であるから、上濃理大付属には追いつこうというだけの気概はないし。


「直前のパス回し、何か変じゃなかったですか?」


 藤沖が首を傾げる。「何が変なんだ?」と潮見が応じるが、佐藤も不思議そうな顔をしていた。


「同じポジションでパス回しをしていたにも関わらず、関与者が違っていたように見えた。それにこの時間、高踏は3バックになっている」

「あ、本当だ」


 神津を中心に神田と神沢が3バックを形成し、右サイドバックに入っていた浅川が前線に入っている。


「ということは7人版のニンジャシステムもある、ということですかね……」

「そうかもしれん。谷端が言うには、天宮陽人にはまだ別のアイデアがあるらしいからな。ただ、そういうものとはちょっと違ったような……」


 佐藤と藤沖は互いに「何だろう?」という顔をしていたが、最終的に結論は出ない。撮影しておけば良かったな、と頭をかくだけだった。



 試合は6-1で終了した。


 選手達を迎え入れる高踏ベンチは勝利の喜びというよりは苦笑いめいたものが浮かんでいる。


「そうそううまくはいかないね」


 そんなことを言いたそうな顔をしていた。

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