12月5日 17:01 高踏高校部室
真田と鈴原以外のメンバーは、部室で組合せ抽選の様子を眺めていた。
「去年は2チームで交互に戦ったけど、今年はどうするの?」
結菜が基本路線を確認してくる。
昨年は2チームで回すのが精いっぱいだったが、今年は1年が加わったことで2.5チームほどにはなっている。
「この前代表でやったみたいに、何試合かのスパンで分ける?」
「いや、選手権の場合は負けたらその時点で終わりだから、調整しながら、というのは難しい」
ワールドカップでは、結果的には勝ったもののグループステージ1戦目と2戦目は試運転モードだった。更に最初の2戦を勝ったことで3戦目も試運転にすることができた。
高校選手権はそうはいかない。1つ負ければそれで終わりである。
調整をしながら、というのは難しいし、もう一つの問題として試合間隔がある。
U17ワールドカップの中2日も長いとは言えないが、高校選手権はほとんどが中1日。回復の時間がないので、交互に戦うしかない。
「代わりに日程が短い分、コンディションの上下をそこまで気にすることはないとは思うが」
逆にコンディション調整の苦労は少ない。
昨年はそこまで考える余裕もなかったし、1回戦から登場ということもあったからコンディション調整の余裕はなかった。今年は去年の経験もあるので、そうしたことも準備ができる。
今回は2回戦から登場なので初戦は大晦日である。
その後、3回戦が2日、準々決勝が4日、準決勝が6日、決勝のみは成人の日となるため急に1週間空いて14日となるが、日程が詰まっているので初戦にピークを持っていってそのまま駆け抜けることができる利点もある。
「とはいえ、さすがに中1日が続くのは辛い。チームを入れ替えつつ戦うことになるだろうな」
「そこは今年も文句を言われそうねぇ」
「確かに」
1年前も、瑞江と大野の対決と期待された試合で、Bチームを送って小さな物議を醸したことがある。
あの時は高踏高校自体の知名度がそこまでではなかったが、今回はU17ワールドカップ優勝があるためそうもいかない。
「ただ、戦術的なことに関しては代表に行っていたチームより、残っていた側の方がよりディテールを詰めているわけだし、高いものが見せられると思うけどね」
陽人の言う通り、Bチームと1年は代表が戦っている間も、ひたすらニンジャシステムの向上やポジショニングを動かす練習をしてきている。
ファンやメディアが期待するのは当然、代表で出ていたメンバーだろうが、そうでないメンバーの方が戦術的には高いレベルで動ける可能性もある。
「ま、そこは今後の練習で更に詰めていこう」
大会までまだ3週間以上ある。
その間に更に連携と戦術を向上させることは可能だろう。
「その戦術面なんですけれど」
マネージャーの卯月亜衣がスケジュール表を出してきた。
「皆さんが代表に行っている期間に、練習見学を求めてきているチームがこれだけあります」
サッカー部では個別の取材は断っているが、取材を伴わない練習の見学については事前に許可を貰っていれば許されるものとしている。
出されたスケジュールを見た陽人が目を丸くする。
「これ、ほとんどのJチームが来るってこと?」
「そうみたいです。恐らく練習などの確認もあると思いますし、個々の選手をチェックしたいということもあるのだと思います」
「そうだね……」
選手権終了時点で全員が卒業後の方針と希望を述べることになっている。
ただ、それがあるとしても選手の視察をしたいと思っても不思議はない。
事実、スペインから颯田を視察したいという動きもある。
今後はそうした水面下での動きは出て来るだろう。
陽人は司城と神津、戎の3人を見た。
「こういうのって、打診から実際の獲得に至るまで早いのかな?」
Jチームが選手を獲得する基準についてはよく分からない。
ジュニアユースにいた3人の方が詳しいだろう。
「それはもう、その選手がどれだけ欲しいかじゃないでしょうか?」
司城の答えはある意味当たり前とも言えるものだった。
「即戦力として期待しているのなら特別指定選手にして、すぐに試合に出すでしょうし、そこまででないのなら3年次も継続してチェックして、最終的に決めるということになるでしょうから」
「そうか、特別指定選手なんていうのもあるんだな」
卯月が続く。
「特別指定選手はそのチームに加入することが条件となりますが、今年からJFAが推薦する選手については加入していなくても同じ県のチームで試合に出ることができます。つまり名古屋ドルフィンズセブンですね。ワールドカップで優勝したことで、JFAから何人か指定されるかも」
「……優勝の可能性が高いのは来年より今年の方だな……」
選手権後から3年次にかけては海外からも誘いがあるし、Jリーグの特別指定選手もあるかもしれない。
それに応じていると、来年の今頃果たしてどんなチームになっているのか。
非常に心もとなくなってくる。
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