12月2日 21:33 シドニー・スタジアム

 壇から降りた立神にマイクを持つ黒人女性が近づいてきた。


 おそらくはFIFAの公式アナウンサーなのだろう。


『日本のキャプテン・ショウマ・タツカミです。優勝おめでとう!』

「ありがとう!」

『日本の男子代表がFIFAのトロフィーを掲げるのは初めてのことです。最初の1人になったという心境はいかがでしょうか?』

「最初とか最後とかは関係なく、最高の気分でした」


 英語でのやりとりで話が進んでいる。



『ショウマがタイトルを掲げる機会はまだまだあると思います。次はU20クラスを目指すのでしょうか? あるいはジュール・リメ杯?』


 一番上のワールドカップの名前が出て、日本人ファンが湧き上がる。


「それは先の話過ぎますので、まずは国内の高校タイトルが欲しいですね。まだ取っていないので」

『日本サッカーがどんどん強くなっていることは多くの人が知るところです。今回の結果で更に弾みがつくと思いますか?』

「そうですね。上の世代もグループステージクラスでは優勝を狙うチームにも勝てています。トーナメントに進むと勝てていないですが、いずれ勝てるようになると思っています」

『ショウマの世代ならやってくれると、皆が思っています』

「初のプレッシャーはきついので、できれば僕達が出る前に、先輩方に勝ってもらいたいです」


 立神のコメントに、ファンが笑う。



『今回のチームは前代未聞のサッカーをしましたが、普段のチームはどうなんでしょうか?』

「練習も前代未聞なものばかりですよ。コーチが日本語で説明していても、実はこの人は日本語を話していないのではないか、どこか宇宙の言葉でも話しているのではないか、と思うことも多々あります」

『それらが報われましたか?』

「そうですね。でも、明日から更に前代未聞で理解できない練習をさせられるのかなと思っています」


 またスタンドで笑いが起きた。


『今回の優勝が、日本サッカーに更なる弾みをつけることを願っています』

「ありがとうございます、サンキュー・オーストラリア!」


 立神が右手でトロフィーを高々と掲げて、インタビュアーから離れた。



 続いて颯田が通訳とともに入る。


『ゴールデンボールとゴールデンブーツのサッタ・イツキです! おめでとうございます』

「ありがとうございます」

『今大会、イツキは最初の2試合には出ていませんでした。そこから10ゴールという結果はどのように評価していますか?』

「いや、もう、出来過ぎです」

『最初の2試合を欠場したのはどのような理由があったのでしょうか?』

「大会直前にチームに合流した選手もいたので、まずはそうした選手達に慣れてもらいたいというのが大きな理由でした。自分は3戦目からスタートするくらいのつもりで調整しておけ、とコーチからは言われていました」


 通訳されると、スタンドが大きくどよめいた。


『実際、3戦目から出ることになりましたが本来のポジションではない右サイドバックでした』

「そうですね。最初2試合で負けたり引き分けたりしていれば全力だったと思いますが、連勝していたので翔馬を休ませようとなって、そのポジションで出ました」

『PKで1ゴール』

「ただ、守備でまずいプレーもあったし、良くはなかったですね」

『トーナメントでオーストラリアとの試合でもゴールをあげました』

「その試合もプレスをさぼって失点してしまって、そっちが重くのしかかっていたので、スペインとの試合では行けるところまで全力で走ろうと思いました」

『結果、4ゴール』

「相手は多分達樹や怜喜を警戒していて、自分はちょっとマーク薄でしたね。そこにうまく入れて、シュートも決まって良かったです」


 スタンドから拍手が起きる。



『この時点で6ゴールになり、得点王も見えました』

「いやいや全然。スペイン戦で走り過ぎて90分は無理と言われましたので。得点王は考えてなかったですね。太陽や達樹が決めるものだと思っていましたから。あ、あとヒロヤもいました」


 緒方が「後からお情けで入れられるのも惨めだから忘れておけよ」と苦笑している。


『準決勝のメキシコ戦は後半から出番が回ってきました』

「真治が入ってすぐに故障するアクシデントがありましたので普通の交代ではなかったですが、0-0だったのでとにかく変なミスはしないようにと注意していました」

『その結果、終盤に決勝点をあげました』

「あれは太陽がうまくスルーしてくれました」

『決勝を前に、3位決定戦でエステバン選手が2点取り、得点王のためには2点が必要となりました。その時の気持ちは?』

「あまり考えませんでしたね。ただ、こう言うと失礼かもしれませんが、何となく2点なら取れるような気はしていました」

『それだけの自信があったと?』

「今日は取れるんじゃないかなという根拠のない感覚はありました」

『実際には3点取りました』

「1点はPKですので、実質取ったのは2点ということで」

『その結果、MVPとの同時受賞』

「これは本当に出来過ぎです」



『今後についても聞かせてください』


 オーストラリアでプレーしろ、という声も飛んできて、それに対して手を振る。


「翔馬も言いましたが、まずは高校のタイトルですね。ウチのチームには取っている奴もいますが、自分達はまだ取っていないので」

『より上の代表もあなたのゴールを期待していると思います』

「選ばれるように頑張ります」

『ありがとうございました』



 表彰式で立神と颯田がそれぞれ「高校タイトルですね」、「まだ取っていない」と語るシーンは、月末からの高校サッカーのデモムービーに入ることになる。

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