11月22日 21:50 シドニー・フットボールスタジアム
後半が始まった。
日本のメンバー交代は無く、オーストラリアは中盤を2人替えた。
「替えてどうなるものでもないと思うけど、な」
城本の言う通り、チーム全体のボールスピードとプレスのスピードに明確に差がある。個人が奮闘してもどうにもならない。
4分、中盤でボールを取った高幡が持ち上がる。オーストラリアは颯田と瑞江を警戒しており、ノーマークからフリーでミドルシュートを打った。これが決まって3-0となる。
スタンドに落胆の溜息が広がった。気の早い人間が席を立ちあがり、帰宅の途につく。
その後、日本の攻勢とシュートが増えるにつれて、帰り支度を始める人間が増えていく。
後半12分、それでも残っているオーストラリアファンがようやく沸いた。
最終ラインへの颯田の追い込みが遅れ、コースを切れずに左サイドのフリーの選手にボールを出された。こちらへの追い込みも遅れ、正確なパスが前線へ通る。
取れると思ったのだろう、CBの原野が前に出たがコースを読み違えたかボールに触れない。パスを受けたFWジェリンスキがターンして角原を抜きにかかり、半分まで抜いたところで右サイドのスペースにパスを出す。
走り込んだマルトロビッチが飛び出した垣野内をあざ笑うようにループシュートを打ち、頭越しに決める。
3-1。
まだ2点差だが、これまで良いところがほとんどなかっただけに、オーストラリアファンが活気づいた。
もう1か所、活気づいているところがある。
「スペインの連中も、ここだ、ここだって言っているみたいだな」
3人いるスペイン人の会話は分からない。しかし、ノートに殴り書きしている様子を見る限り、中盤で動かせば前線との間にパスコースが出来る。そこを攻めれば良いというようなことを言っているのだろう。
「そこも問題だし、颯田が遅れてパスを回させてしまったのが問題だったな」
スペインはオーストラリアより更に早いだろう。
こうしたシーンは厳禁と言えそうだ。
既に交代選手が何人かアップしていたが、ここで日本は選手を替える。
七瀬と戸狩が入り、颯田と高幡が出る。颯田はベンチ前で「すまない」と陽人と峰木、他のメンバー達にも頭を下げていた。
小切間が隣にいる石代を見た。
「もしかして、懲罰交代か……?」
失点の原因のうち、原野については判断ミスではあるが、本人は「取れる」と積極的に向かっていった結果だ。仕方のないミスとも言える。
一方、颯田は楽をしようとしたのか、追い込みをサボってしまった。陽人とすればそれが気に入らなかったのかもしれない。
ただ、後半15分と交代のタイミングでもある。高幡も下げているところを見ると、偶々かもしれない。
「分からんけど、まあ、気を引き締めることにはなるだろうな」
下げられた颯田は謝っていたから、自分がさぼってしまったことを理解しているのだろう。「サボるなら替える」というメッセージにはなったはずだ。
オーストラリアもこのタイミングでFWを2枚投入する。
追いかける側からすれば当然の策ではあるが、これが裏目に出た。途中から入ったケニー・ウッドが試合の流れについていけない。かわされてからのアフターチャージを続けざまに2度やってしまい2度ともイエローカード。
僅か5分で警告2回を受け、退場となった。
その空いたスペースを戸狩がついてドリブルで切れ込み、2人かわして折り返したところに七瀬が飛び込んできて4-1となった。
既に後半20分。
残っていたオーストラリアファンも敗戦を悟り、更に家路につく者が増えた。
一方、日本もこれで余裕をもち、陸平と立神を下げ、モラレスと楠原を投入した。
スペインのスカウティングチームは「これだけ選手が変わるとこの先はスカウトする意味がないな」という様子でノートを閉じた。
そこからは端末を開いて、後半途中までの色々なシーンを振り返っている。
小切間が城本に尋ねた。
「日本はああいう分析チームがいるんだっけ?」
「いるだろ。アンゴラ戦の時、相手に合わせたプレー頼まれたじゃないか」
「あ、そうか」
「ただ、もう少しプレーごとに分類してくれればいいのに、って天宮がぼやいていたな。高踏のそれ専門の生徒の方が良い仕事するらしい」
「代表スタッフより高踏の学生の方がいい仕事するのかよ」
「まあ、だから、高踏の連中が、代表席巻しているわけだし」
「……確かに」
後半ロスタイム、コーナーキックからオーストラリアが意地の一発を放ったが、4-2で日本が勝利した。
一方、メルボルンではスペインがチリに3-0と勝利。
これで8強チームが出そろうことになった。
25日開催の準々決勝は、
アルゼンチン-デンマーク(ニューカッスル)
ナイジェリア-ドイツ(パース)
日本-スペイン(キャンベラ)
メキシコ-コロンビア(アデレード)
という組み合わせとなった。
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