11月18日 16:47 高踏高校クラブハウス
この日、高踏サッカー部は15時で練習を切り上げ、クラブハウスの大型テレビの前に部員全員が揃った。
U17日本代表の試合の観戦である。
これまでは平日開催で時差の関係もあり、観戦は叶わなかったが、今日は日曜日であるため、ようやくじっくりと観戦ができる。
「しかも、今日に限って時間が遅いし」
今までは現地時間14時キックオフであったが、この日はグループステージ最終日ということもあり、早い時間帯はグループDの試合が行われていて日本の試合は現地時間18時からである。日本でも16時からで見やすい時間帯だ。
試合前にネットで試合結果をチェックしていた我妻が声をあげた。
「あ、結菜。トーナメントはもう決定しているよ」
「えっ、どういうこと?」
既にグループDまでの4つのグループは最終順位が確定している。
ここまでのグループの3位チームの下位二つはグループAのアメリカと、Cのカタールはそれぞれ勝ち点1と2となっている。
一方、これから試合を行うグループEとFであるが、どういう結果に終わろうと3位チームが勝ち点3以上取ることが確定している。
従って、アメリカとカタールの敗退が確定し、それを元にトーナメント表が決まったのである。
「日本はグループ1位だとトーナメント初戦はオーストラリア……」
「うわ、開催国か。しかもその次はスペインじゃん」
グループ1位で勝ち抜けた場合、トーナメント初戦は開催国のオーストラリアであり、そこを勝ち抜くとスペインとチリの勝者、おそらくはスペインとなるだろう。
同じアジアのオーストラリアとの実力はそうかけ離れていないし、連携なども含めたチーム力は日本の方が上だろう。
しかし、開催国というアドバンテージがある。会場もシドニーの4万人が入る大きなスタジアムであり、完全アウェーとなる展開もありうる。
近年、どんな大会であっても出れば優勝候補になるスペインは、この大会でも強力なチームを擁している。
FCカタルーニャの2選手こそ召集拒否して合流していないが、キングス・マドリーのフベニール(17~19歳世代)でゴールを量産しているルシアンとピーチョをはじめ、近い未来にラ・リーガの舞台で活躍しそうな選手が揃っている。
「2位だとグループFの1位かぁ。何か2位抜けの方が楽そうだね」
グループFの1位はメキシコかカメルーンのいずれかであるが、開催国よりは与しやすそうな雰囲気がある。その次はコロンビアとナイジェリアの勝者、侮れる相手ではないがスペインよりは楽そうな印象がある。
とはいえ、日本はここまで勝ち点6の得失点差+5。ドイツとアンゴラが勝ち点3でそれぞれ-1と-2である。
ここから2位になるとなれば、裏のカードのドイツ-アンゴラでどちらかが勝利したうえで、日本がカナダに大敗する必要がある。
そんなことをすれば、対戦相手は楽でもチームの雰囲気は悪くなるだろう。
「それなら、カナダに勝ってスカッと行くしかないよね」
2戦2敗のカナダが3位に入る条件は日本に勝つことが絶対に必要で、そのうえでドイツとアンゴラの試合でいずれかが勝つことが必要となる。
厳しい条件ではあるが、後がない分思い切り来ることが予想された。
3時30分、両チームのスターティングメンバーが発表される。
「あらら、3戦続けて星名さんを起用するんだ」
目につくのは3試合連続CFで起用されそうな星名である。また、ディエゴ・モラレスもこの試合はポジションをCBに下げているが、3試合連続でのスタメンだ。
一方、ここまで2戦連続で出ていたGKの垣野内、CBの角原と原野とSB立神、MF高幡にFW緒方はスタメンから外れている。
それ以外では右サイドバックに颯田が入っていることも目を引いた。
スタメン:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093083637572863
試合が始まった。
カナダは3-4-3の布陣。サイドでは数的優位を作りやすいと思われたが、開始直後、右サイドの颯田があっさりと背後を取られてボールが抜けた。
「あぁっ!」
左サイドのウェイン・リーフが中央に切れ込んで林崎もかわされた。そのまま強烈なシュートを打たれていきなりカナダに先制点が入る。
「や、やっぱり右サイドバックを颯田さんにやらせるのはちょっと無理があるのかも……」
元々立神の控えの予定だった井塚マイケルが直前で負傷して、代わりがいない。
颯田も練習はしているものの、いつもは右ウイングを中心に前の方でプレーしている。どうしても数歩前に出てしまったのであろう。
日本にとっては初めてのビハインドの展開となるが、すぐに追いついた。今度は右サイドで七瀬と数的優位を作った颯田が中に切れ込んでクロスをあげる。星名が詰めてきて同点だ。
その勢いのまま逆転と行きたいところだが、後がないカナダはどんどん前に圧力をかけてくる。
「うわー、この前のアンゴラより迫力があるね」
この日の日本は颯田がどうしても少し前に出がちという問題点がある。カナダも当然そこを狙って日本の右サイド側にボールを集める。
しかし、このサイドでボールを取れれば反対に日本のチャンスになる。お互いにこのサイドからチャンスを創出する展開になった。
チャンスだけではない。25分、日本は右サイドから一気に左サイドの瑞江まで繋いで、その瑞江がドリブルで突破、スルーパスを星名が決めて逆転に成功するが、34分にカナダは再びリーフが持ち上がり、クロスをダニエル・グレックが押し込んで同点に追いつく。
39分に瑞江が決めて再度勝ち越すが、終了間際にまたもグレックのヘディングが決まり、前半を3-3で折り返すことになった。
「ノーガードの殴り合いというか、馬鹿試合になってきたというか……」
関係者として見る分にはツッコミどころが山ほどあるが、2000人程度しか入っていない観客は予想外のゴールラッシュに大喜びだ。
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