11月18日 19:49 メルボルン・スクエアスタジアム


 ハーフタイム、日本の控室はスタンドほどには明るくはなれない。


「颯田が前にいるのも問題だけど、前線が気持ち遅いことで、相手にパスを出す余裕が出てきている」


 裏を取られてしまう方がどうしても目立つが、前が追い切っていないから余裕を持ってパスを通されているし、キーパーが上がりきれていないから裏を通ったパスがことごとくピンチになっている。


「もちろん、問題を顕出させるためのメンバー構成にしているから、悪いのは俺だ。あまり気にする必要はない」


 CBも含めて変更が多いから対処できないのは仕方ない。


 個人の問題というよりは、それを承知で起用した監督の問題である。


 また、ここである程度問題になった方がなぁなぁのプレーが避けられるという点も見込めた。



 後半に向けてのメンバー交代は上木葉に替えて稲城、更に15分の段階で星名を戸狩に替えることを宣言する。これで登録メンバー21人全員がプレーすることになる。


「星名はあと15分なので、後半はもっと思い切りチェックに行ってほしい」

「分かった」

「沢元も、もう一歩二歩前に」

「ラジャー」

「そのくらいかな。ま、明らかな問題があったわけではない、後半も気を緩めずプレーしてほしい」


 そう指示を出して、陽人はメンバーを送り出した。



 後半に向けてカナダはメンバー交代がない。そのままの勢いで追いつくことを狙うようだ。


 後半キックオフ、カナダがボールを下げると星名がまっしぐらに追いかける。


 カナダは逃げるパスを出そうとして、慌てて前線に大きく蹴り出した。


 稲城と瑞江、楠原がコースを塞ぎ、どこに出してもカットされそうになっていたからだ。


 このプレーを皮切りに日本が一気に高い位置に上がり出す。



「稲城1人でチームの守備がここまで変わるのか……」


 前半で退いた上木葉が唖然となる。


「……希仁もそうだけど、星名が思い切り行けるようになったのも変化だな。ま、思い切り行けるようになるのは希仁と怜喜がいるからでもあるんだけど」


 それぞれがやるべきポイントを理解しているので、思い切り走っているように見えて負担も分担できている。



 防戦一方になったカナダは日本の右サイドを狙おうとするが、見え見えの展開になると颯田もしっかり対応する。


 そのまま攻め続けて……



 後半11分、瑞江から前線で受けた星名が倒されてPKを得た。


「お前、蹴れよ」


 全員、星名が自分で蹴るだろうと思っていたが、その星名が颯田にボールを渡す。


「次以降、お前と瑞江が頼りになるんだろうから」


 決勝トーナメントでは、星名も緒方も調整に入る。


 七瀬もいるが、主軸として期待されるのは瑞江と颯田だ。


 瑞江は前半に1点取っているので、颯田に点が欲しい。


「いいのか? これ取ったらハットトリックだろ?」

「いいよ、俺はもう5点取っているし、な」


 確かにここまでの3試合で5点取っている。運が良ければ、ここからノーゴールでも得点王になれるかもしれない。


「チームを勝たせるのもエースの仕事、ってな」


 星名はおどけるように手を広げた。



 ボールをもらった颯田は順当にPKを決めた。


 これで勝ち越すと、程なく星名と戸狩が交代する。


 そこから更にプレーに無駄がなくなった。点の欲しいカナダはどうしても攻めようとするため、日本の、いや、高踏の網にかかりまくる。


 19分に瑞江が左サイドでボールを奪い、一人かわして中へクロスを送り、戸狩が決めた。5ー3。



 試合もグループリーグの形勢も決まった。


 同時刻開催のドイツとアンゴラは1-1でゆったりしているという。


 どちらも勝ち抜ける展開になり、予定調和的なところがあるのだろう。



 日本もペースを落として、園口と鹿海を入れて疲労の分散も図る。


 そのまま終了するかという雰囲気が漂ってきたが。



「うわー!?」


 諦めないカナダは40分にグレックが35メートルほどある位置からミドルシュートを打った。ワンバウンドが予想以上に伸びて、沢元の手の先を抜けて決まり、再度1点差に迫る。


「凄いシュートだなぁ」


 その後もカナダは前線に人を集めて同点更に逆転を、という意識で日本ゴールに迫るがそれ以上の失点は許さず、5ー4。


 日本は3連勝で首位通過を決めた。

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