11月12日 18:25 メルボルン・宿舎
ドイツに勝利して、意気揚々と日本代表はホテルへと戻った。
着くと既に夕方を過ぎていた。程なく夕食の時間になると言う。
すぐに向かいたいところだが、その前に陽人はリザーブメンバーの3人を呼んだ。
初戦までに交代がなかったことで、北日本短大付属の石代崇と小切間浩章、洛東平安の城本寛紀の3人は今後登録がありえない状況になっている。
「どうする?」
3人は一応、残る旨のことは言っていたが、実際に事実として確定するとどうなるか分からない。また、どちらの高校も冬の選手権への出場を決めているから、そちらで頂点を目指すという方向もある。
そのために意思確認であったが。
「……いや、ここまで来たんだし最後まで残るよ」
3人とも意思の変化は見られないし。
「何かできることがあるなら、協力するぞ」
と協力を申し出た。陽人は頭を下げる。
「すまないな、実は一つ頼みたいことがある」
「何だ?」
「次のアンゴラ戦なのだが……」
2戦目の相手アンゴラはA代表に関してはアフリカの中堅国という立場だ。A代表が試合をする場合は日本の方が格上という扱いになるだろう。
「正直、アンゴラは割と勝ち点を計算できる相手ではあるのだが、中盤に2人強力な奴がいる。そのプレーを落としこんで、明日夕方のトレーニングに反映したい」
「そんな強力な奴のプレーを俺達が出来るものか?」
石代が首を傾げた。
「もちろん全部は無理だろうが、特徴があるからそこをなるべくコピーしてもらいたい。その2人を押さえられれば、全体のレベルはそこまで高くない。多分勝ち点3を取れる相手だ」
「なるほど……。分かった。じゃあ、食事が終わったら、ビデオを見て研究するよ」
石代と小切間が承諾した。城本が「俺は?」という顔をしているが。
「相手のディフェンスの時にやってもらいたいことがある」
「分かった。まあ、色々なプレーをやってみることも悪くないだろう」
「本当に助かる」
陽人は再度頭を下げた。
3人との話が終わって、一緒に夕食の会場に移動した。
既に半分くらい揃っている中に、星名と緒方がいる。
陽人はこの2人を手招きした。
「今日はお疲れ様」
「いや、本当にこのチームは疲れる……」
緒方が疲れたとばかりに肩を落とす。
「まあ、勝てて良かった。あとは練習をしっかり、というわけだな」
「そのことなんだが、次のアンゴラ戦も出る気はないか?」
陽人の言葉に、2人が顔を見合わせた。
「あれ? ドイツ戦のあとは準決勝まで出番がないって言ってなかったか?」
「言った」
陽人はあっさりと認めた。
「なら、何故?」
「元々は、ドイツ戦は恐らく負けか引き分けだろうと思っていた。だから、残りの2試合で確実に勝ち点を取らなければいけなくなるから、余裕がなくなるだろうと思っていた」
しかし、ドイツに勝ったことで既に日本は勝ち点3になっている。
目標としていた4に到達するためには、アンゴラかカナダのどちらかと引き分ければ良い。
となると、もう1試合テストする余裕が出来たことになる。
「フル出場とは言わないが、60分70分くらいはプレーしてもらえるとありがたい」
「……いや、それはまあ、プレーできるならこちらも歓迎だが、出る予定だった奴はプレー時間が減るんだろ? それでも良いのか?」
「それは大丈夫だ。達樹と五樹には既に話をしている」
ドイツ戦に負けていれば、2戦目のスリートップは七瀬、瑞江、颯田の予定であった。
個々の能力は別として、陽人の戦術への理解度を掛け合わせるとチャンスの数と得点がもっとも期待できるのは、瑞江と颯田の2人になるからだ。
ただ、本音を言うならばこの2人は勝負所でなるべく良い状態でいてほしい。プレー時間を減らして消耗を避けられるなら、それに越したことはない。
星名が少し考えてから尋ねてきた。
「仮にアンゴラにも勝てれば、第3戦も俺達になるのか?」
アンゴラに勝つ、あるいは引き分けでもグループステージを勝ち抜ける可能性が高くなる。
そうなれば、第3戦のカナダ戦もテストしても構わないことになる。
「……方向性としてはそうなる。ただ、間隔が短いからそこはコンディション数値なども見ることにはなるかな。3戦続けて使って故障されても困るし」
「いや、アジアの時は5戦連続使わされたし、そこまでやわでもないが」
7月のアジアカップでは「負けよう」と言った3戦目以外主力は全試合フル出場だったし、負けようとした試合にしても結局多くの者が試合に出ている。それを思い出して緒方が苦笑したが。
「アジアと世界だと、出力も変わってくるだろうし、疲れ方も変わるかもしれないからな。ま、それについてはアンゴラ戦が終わってから考えれば良い。結果も出ていないのにあれこれ考えても仕方がない」
「分かった。さっきも言ったけど、プレーできるならこちらも歓迎だ。アンゴラ戦も出ることは何の問題もない」
「……了解。それじゃ、食事にするか。3戦目も出たいなんて言うからにはしっかり栄養も取ってもらわないと、な」
いつの間にかほぼ全員が集合していた。
陽人は2人の肩を叩いて、自分の席へと戻って行った。
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