U17ワールドカップ
11月3日 18:11 メルボルン・代表宿舎
※日本とメルボルン含めたオーストラリア東部との時差は通常1時間、ただしサマータイムがあるので日本時間だと16:11
オーストラリア・メルボルンにある日本代表の宿舎。
到着当日ということで、さすがにこの日はオフにしており、陽人を含めた高校組はメルボルンの宿舎で自分のチームの決勝を確認していた。
「全チーム勝利したみたいだね。武州総合はPK戦で9人目まで行ったようだけど」
高踏の試合結果を確認した後、陸平が全国の結果も流し見している。
「ひとまず良かった」
主力選手が代表のために頑張るのは有難いが、それで所属チームが高校サッカーに出られないとなると、申し訳ない気持ちになる。
全チームが勝利したことで、気分よく大会に臨むことができそうだ。
夕食の少し前、監督室で峰木とスケジュールの確認をしていたところに星名がやってきたという報告が入ってきた。
「まず、この部屋に来てもらってほしい」
峰木の指示に、スタッフが「分かりました」と出ていく。
5分ほどで星名がやってきた。サングラスに青い高級スーツを着込んでいるが、あまり似合っていない。
「すいませーん、イギリスからオーストラリアは遠いんで」
サングラスを取って、あっけらかんと軽いノリで謝罪をしてきた。
峰木も陽人も特に表情は変えない。陽人は淡々とした様子で応じる。
「どうせ到着当日で練習もしないし、遅刻自体はいいんだけど、ちょっとそこに座ってくれ」
「……?」
星名がけげんな顔で座ったところで、陽人はこれからの予定と起用法の話をする。
「怜喜から聞いていると思うが、君と緒方を除く22人は2か月の間、週末は常に合宿してきている。成果は明日分かると思うが、チームとして戦える準備はできているとは思う」
「……おう、陸平がすごいことをやる、と言っているから相当なものみたいだな」
「それは何とも。で、君の立場について話をしたい。君はチーム一のスター選手であるし、個人としては今回呼んだ中で一番高いものを持っているのは間違いない。ただ、一番遠くからやってきて、一番チームに馴染んでいない選手でもある。あと、アジアの大会ではしばしば戦術を無視してプレーしていたフシもあった」
「否定はしない」
「理想としては、君がその高い能力でチームにプラスアルファをもたらしてくれるとか、独力でチームを勝利に導いてくれる、ということだ。これだったらベンチは楽だし、チームみんながハッピーだ。ただ、そうじゃない可能性もある」
星名も真顔になる。
「そうじゃない場合はどうなるんだ?」
「まず急ピッチでチームに馴染む練習をしてもらう。緒方ともどもその準備はしている。そのうえで親善試合のアメリカ戦と、グループリーグ初戦のドイツ戦はフルタイムでプレーしてもらう」
そのドイツ戦まで見たうえで、良いのであれば問題ない。
しかし、もし、あまり良くないと判断されれば……。
「グループリーグの残りの試合と、決勝トーナメントの前半はベンチになる。その間に更に慣れることができれば」
「慣れることができれば?」
「準決勝以降、もう一度出ることになると思う」
「準決勝!?」
星名の目が丸くなった。
日本は過去、この大会ではベスト8までしか進んだことがない。
準決勝に行くということ自体、既に未知の領域だ。
「もちろん、行けるかどうかは分からない。ただ、二戦目のアンゴラ戦から準々決勝までは120パーセントで戦える準備をするつもりでいる」
初戦のドイツ戦を落としても、残り二戦で調子をあげていき最低でも三位チームの上位には入れる。
その後、決勝トーナメントの二試合でも120パーセントの調整をする準備はできている。
監督やベンチにできることは最善の準備を整えて、選手を送り出すことだけだ。そこから先は運や相手の出来とも関わってくるから、保証はできないが、進む準備はできている。
「高踏高校では行けるところまで行こうくらいの感じだったが、さすがに日本代表となるとそんな無責任なことは言えないし、選手の能力も高いから、できる限りの計画はした。ただ、準決勝以降まではさすがに想定できない。そこから上に行けるとするなら、ジョーカーの力が必要になるだろう」
「……つまり、俺がジョーカーってわけか」
「もちろん、そこまで期待されるのが嫌だと言うのなら、今すぐに言ってもらえれば全体の起用法を調整することにする」
「ふざけんな」
星名がニヤリと笑う。
「整理すると、俺は最初ある程度頑張ってその後しばらくお休み。その間に残りの全員で準決勝まで進むから信じて調整しろ。準決勝と決勝では疲れた残り全員の代わりに俺が死ぬほど頑張れ、ということだな?」
「概ねそんな感じだ。決勝じゃなくて3位決定戦かもしれないが」
「馬鹿な事を言うんじゃねえ。残りの2試合で150パーセント出して優勝させてやる。その代わり絶対に準決勝までは勝ち進めよ」
「そのつもりではいるけど、保証はできない。何が起きるか分からないのがサッカーだから。ま、起用法についてはそんなところだ。ただ、明日の練習に参加して新たに思うところもあるかもしれないし、そうなったらまた別途話の機会を設けよう」
「分かった」
話が一段落ついた。
「それじゃ、晩御飯にしようか」
「あ、晩御飯はファーストクラスで食べてきた」
あっけらかんと答える星名に、陽人は冷たい視線を向ける。
「……何を食べたのかまで聞かないが、今回はJFAで雇ったシェフも帯同しているから、明日以降食事は必ず皆ととること」
「お、おう……悪い」
星名はバツが悪そうに、頭を掻いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます