11月3日 16:04 TSリセット港競技場

「勝った……」


 最後のPKストップを見た途端、結菜が座り込んだ。


「疲れたぁ……」


 そう言ってがっくりと頭を落とす結菜に、我妻がにっこり笑いかけて肩に手をおいた。


「お疲れ様」

「昨日2時間しか寝てないから、もう無理……寝る」

「うん、寝ていいよ」


 我妻が真田を見た。


「ということで、インタビューはお願いします」

「任せておけ」


 答えるが早いが、インタビュアーが近づいてきた。


 昨年はオドオドしていた真田だが、慣れたのか、自ら向かっていく。



 インタビュアーは一瞬、「あれ?」という顔をしたが、昨年もインタビューした間柄である。自然と反応してインタビューに入った。


『二年連続県大会を制しました、高踏高校監督の真田順二郎さんです!』

「ありがとうございます」

『この大会、多くの選手を代表に送った中で迎えることになりました。日程の変更を求めることもできたと思いますが、考えなかったのでしょうか?』

「全く考えませんでした。確かに今回、日程を変えることはできましたが、長い人生、例えば冠婚葬祭などが重なり、どちらかを選ばなければならないことは必ずあります。また、今後のための勉強も大切です。何もかもというわけにはいかないのです。選手達のこれからのために人生勉強を積ませることにしました」

『な、なるほど……、重みがありますね』



「真田先生、どうしたんだろう? 延長の時といい……」


 呆気に取られる我妻に高幡が話しかける。


「予選が始まった頃から、仁紫先生に色々聞いていたみたい。やりたい放題できる監督のインタビューのやり方を」

「いや、そっちより先にやってほしいことがあるんだけど」



 我妻の声を他所に真田のインタビューはボルテージをあげていく。


『追いつかれて延長戦になりました』

「こういう素晴らしい決勝戦を更に味わうことができる、結構なことじゃないか。もっと楽しもうと声をかけました」

『PK戦になった時はどうでしょうか?』

「あとは選手達に任せるだけでした」

『冬の選手権では代表に行っている選手達も戻ってくると思います。高踏高校は優勝候補として臨むことになると思いますが、気持ちを聞かせてください』

「外部の評価を気にしていても仕方ありません。我々に出来るのはプレーボールから試合終了まで一つ一つのプレーをきっちりこなしていくことだけです」

『なるほど……うん?』



 インタビュアーが気づかなかったが、我妻は気づいてポツリと突っ込む。


「プレーボールは野球だから……」



『代表に行っている選手達に一言あればお願いします』

「サッカーも大事だけど、渡しておいた課題もしっかりするように。それだけですね」

『……さ、最後に高踏高校を応援しているファンの人にもメッセージをお願いします』

「飲み過ぎず、入り込み過ぎず、楽しく応援してもらえると良いですね」

『あ、ありがとうございました。高踏高校の真田監督のインタビューでした!』



 昨年と比べると、変に止まることもなくつつがないインタビューであった。


 ただ、随所に「聞いている側に嫌味を言っているのではないか?」というような発言があり、そこに批判はあったようだ。


 また、『試合中に監督は天宮陽人の妹という紹介があったが、インタビューしている監督が去年と同じ人なのはどういうことなのか?』という問い合わせもテレビ局にはあったが、高踏高校サッカー部はSNSの類を一切有していないので反応をぶつける場所もない。


 すぐに誰も話題にしなくなった。



 相当に眠たいのだろう、無言の結菜とともに下がろうとすると、近くで佐藤が取材を受けていた。我妻の意識は自然とそちらに向いてしまう。


『PK戦となった時の心境は?』

「……宍原がいる分、こちらが有利ではないかと思っていましたが、甘かったですね。とにかく水田君が凄かったというしかありません」

『試合についてはいかがでしょうか? 延長を終えて2-2という結果には?』


 佐藤が少し渋い顔になる。


「相手が多くの選手を代表に派遣していることを考えれば、もう少し何とかしたかったというのが正直なところです」

『途中からラインをあげました。思うような位置でプレーできなかったということでしょうか?』

「……そうですね。今日の高踏さんなら、もう少し前から勝負に行きたいという思いがありましたが、結果的には低い位置でのボール奪取ばかりでした。低い位置で奪っても、高踏さんの組織的な守備に阻まれて中々進めませんでしたから……このあたりは監督の差と言っても良いでしょうね」

『高踏高校に一言』

「今年こそ、県勢初の優勝を勝ち取ってほしいですね」

『ありがとうございました』

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