11月3日 15:37 TSリセット港競技場
スタンドでは藤沖が思わず立ち上がった。
「凄いセーブだ! あれを止めるのは凄い!」
藤沖の言う通り、リプレーで確認しても、谷端のキックは悪いものではない。
確かに高さは若干甘く、水田の手の高さではあったが、コースはポストギリギリだ。簡単に届く場所ではない。
『谷端君のキックは良かったですが、水田君のストップがその上を行きましたね』
テレビの実況も解説も舌を巻いている。
防がれた谷端も「あれを止める?」という唖然とした顔つきだ。
止めた水田は大きなガッツポーズもしない。弾いたボールを拾って主審に送り、淡々とした様子で宍原の場所に向かう。
『これは高踏ゴールキーパーの水田、PKにはかなり自信があるのでしょうか?』
『確かに鋭い横っ飛びでしたよ。深戸学院のキッカーにはプレッシャーがかかるでしょうね』
高踏の1人目は鈴原だ。
「これが決まれば、逆に高踏が一気に有利になるね」
藤沖が言った瞬間に軽い足取りから駆け出した。シュートは右に飛んだ宍原の逆を突いて左に決まる。
『高踏1人目の鈴原、ここはきっちり決めました!』
深戸学院の2人目はエース・下田。
ボールを置くと、考えすぎてプレッシャーがかかるのを嫌ったのだろう。すぐに走り出す。
強烈なシュートが右上に飛んだ。水田も右に飛んで手を伸ばしたが、僅かに先をボールが越す。
『深戸学院2人目は下田。助走をつけてシュート! これは決まって、1-1となりました』
『いや、しかし、キーパーの水田君、ギリギリのところに飛んでいましたね。タイミングが合っていますよ』
解説が驚いている通り、高さも幅もギリギリのところへ蹴り込んだはずのシュートなのに、もうボール半分でも内側なら止められたのではないか、という位置に水田の手が伸びている。
「篤志に続いて、下田もあわやという位置だ。深戸のキッカーのプレッシャーはキツくなるな……」
高踏の2人目は途中出場でキック精度の高い弦本であるが、精度関係なく宍原の逆を突いて簡単に決める。
『弦本も決めました! 高踏、2-1とリードして3人目を迎えます』
深戸学院の3人目は左サイドに途中から入った外山。
長くとった助走から強めのシュートを撃った。
『外山、長い助走からシュート! あぁ、外しました……』
右上の隅を狙ったシュートがバーの上へと行ってしまった。
『……少しでも甘い位置なら水田君の手が届きますからね。ギリギリの位置を狙わないといけないので、キッカーへのプレッシャーは半端ないと思います』
解説が同情気味に言う。
『しかし、高踏のGK水田はここまで三本全て方向が合っていますね。これは読んでいるのでしょうか、それとも反応が素晴らしいのでしょうか?』
実況の質問に、藤沖は「反応であのギリギリはありえないよ」と無意識に返答する。
『どうでしょう。反応であそこまで飛ぶのは難しいので読みが鋭いのか、あるいは事前に深戸学院のキッカーの情報を得ていたのかもしれませんね……』
解説も同じ感想のようだ。
高踏の3人目は曽根本だ。
緊張してそうなっているのか、あるいは本心から楽しいのか、小さな笑みを浮かべながらボールをセットした。
右にシュートし、宍原も右に飛んだが、ポストの内側を直撃して、そのままゴールの中に吸い込まれた。「危なかった~」と胸に手をあて、苦笑も加わった笑みを浮かべて戻ってくる。
「リードしているし、キーパーが止めてくれるだろうという期待もあるし、気分的に楽に蹴れているね。だからボールも良いコースに行っている。逆に深戸の次のキッカーはゴールが狭く見えて仕方ないだろうな……」
藤沖が同情を寄せた深戸学院の4人目はこれまた途中出場の前田。
これを外せば、高踏の勝利となるだけに表情が硬い。
前田はボールをセットして、助走を大きく取る。
『深戸学院の4人目は前田。助走をつけてシュート……止めました!』
前田はど真ん中高めに思い切り蹴り込んできたが、水田はその場に留まりしっかり弾いた。
『高踏高校、2年連続優勝! 冬の高校サッカー出場が決定です! ヒーローは高踏高校の1年生ゴールキーパー、水田明楽! スタメン須貝の負傷で急遽出場となりましたが、PK戦で3本ストップ! 解説の紀藤さん、また高踏にすごい選手が現れましたね!?』
『いや、このPK戦は本当にすごかったですね。最後、真ん中のシュートを止まって止めたということは、それまでのシュートも反応で跳んでいたんでしょうね。この選手がいると、全国でもPK戦ではかなり余裕をもって臨めそうです。あれ、でも、鹿海君が戻ると出られないのか。インターハイでもいなかったし……』
解説が若干混乱しはじめた。
「冬の高校サッカーは出られるはずだ」
スタンドで藤沖が答え、辻も頷いている。
冬は30人まで登録でき、20人をベンチに入れられる。
水田はチーム全体では第3キーパーだが、選手権では毎試合控えキーパーとしてベンチに入るだろう。PK戦専用であっても入れるだけの価値が水田にはある。
そう確信させるPK戦であった。
県大会決勝
高踏 2(3 PK 1)2 深戸学院
(高踏)神津、篠倉
(深戸)鈴木、竹内
PK戦
深戸1 ×○××
高踏3 ○○○
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