8月25日 18:30 クラブハウス内
対抗戦が終了した後は、移動や対抗戦の精神的疲労もあるので、ロンドや尻尾取りといった基本的な練習に終始した。
その後、夕食をクラブハウスでとる間、陽人が話をする。
「とてつもなく不可解なことをしていると思うかもしれないけど、実はそれほどでもないんだ。大体のチームでロンドの練習をするだろう?」
「それはまあ、ロンドはするが?」
答えたのはDFの角原だ。アジア大会でもフル出場していた守備の中心である。
また、守備の選手はひとまずローテーションに入らないようなので、本人は多少安心している節もある。話し方に緊張感がない。
「ロンドで位置をずらしても特に変わることはないだろう? それをピッチの中でやるだけだ」
「……そんなものなのか?」
角原は軽く首を傾げているが、残りの面々からは一斉に「絶対に違う」という反対の声が聞こえてきた。
「うちの練習は基本的な技術とポジショニングを徹底する日と、オリジナリティを徹底したメニューの日を交互にしているけれど、さすがに代表選手を相手に基本的な技術とポジショニングを徹底する必要はないと思うので、これから3日間はオリジナリティ型のメニューで行くつもりだ」
「最終日は?」
合宿は5日間。1日目が終わって、3日練習した後、最後の1日はどうするのか。
「最終日はその状況を見て、もう一回対抗戦をするか練習にするか決めたい。で、明日やるものだけど45分ずつの3つの練習と30分程度のレクリエーションをしたい」
陽人はホワイトボードにすらすらと書いていく。
「まずはAコートとBコート、BコートとCコートを円形のピッチにして、10人とキーパーでミニゲームをする。ただし、ゴールは二つあって、かつスタッフがゴールを頻繁に移動させるから、ボールとゴールの位置、スペースの関係は随時変化する」
「ピッチが丸い上にゴールが二つ?」
角原の質問に、陽人が頷く。
「一つだけだと、みんなゴールに沿ってフォーメーションを移動するのが目に見えている。だから、二つ置く」
「ちょっと待ってくれ。それだとDFの見える位置も変わるんじゃないか?」
「そうだよ」
当然じゃないか。言外にそう含ませて陽人は答える。
「今日高踏側がやったのはローテーションを組むのは前の6人だけど、別にDFやGKは何もしなくていいわけでもないし。まあ、ただ、GKは両方のゴールに1人ずつつけるけどね。そうでないとロングシュートばかり狙うことになるだろうから」
GKは人数に余裕もあるから、こういう形で起用人数を増やさないとゲーム練習が少ないこともある。陽人はそれも付け加えた。
「マジか……」
DFは回らなくていいから逃れられると思っていたのだろう、角原ががっくりと肩を落とした。
図解:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093081743807562
陽人の説明は二つ目の練習に移る。
「2つ目はAコートとBコートでもう少し簡単な11人でのミニゲーム。こちらはさっきの高踏がやっていたように、単純に笛を吹いたらスライドするというすっきりした形だ」
「すっきりしてないけどさ……」
モラレスが言うが、それでも、最初の円形ピッチでのミニゲームと比べれば、大分マシということだろう。余計なことを言って変えられても困るから文句は言わない。
「3つ目はより普通のミニゲームをやる。これは局面を想定した形での練習になるかな。まあ、多分どこのチームもやっている普通のものだろうと思う」
陽人は気楽に言うが、全員の目は懐疑的だ。
普通だ、とか言いつつ想定外の仕掛けをしている可能性がある。
「ここの普通は、世間の非常識だ」
小声でささやき合っている。
「で、レクリエーションはDコートで15対15のラグビー式のサッカーをやる」
「うん? ラグビー式のサッカー?」
ここまで、招集された中では比較的「理解しているよ」という風な顔をしていた楠原が首を傾げた。
「ラグビーはどんな形でも前にいる選手にパスを出したらオフサイドだ。それをサッカーにも適用する。というより、イングランドで最初にプレーされたフットボールも元々はこういうルールだったらしい」
全員、けげんな顔をした。引き続き楠原が尋ねる。
「……あえて、ラグビーのルールでやる意味はどこに?」
「ラグビーは密集と展開が連続する競技だけど、全員が思い思いにやっていたら効率的にはならない。何人かの選手が指示を出して2、3人のグループをいくつも作って攻撃の展開を変えていくものらしい。その細かいグループが有機的にかみ合ってチャンスができるという。2、3人ずつ連携して全体が有機的に動くというのはサッカーにも相通じるものがあると思うから、参考になると思う」
これは高踏の面々も今回初めてやるから、互角の条件でプレーできるだろう、とも付け加えた。
「それ以外については、招集組はやりなれていないこともあると思うから、明日はある程度配慮するつもりだけど、多分一度やればある程度掴めるんじゃないかな」
「無茶言うな」
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