8月18日 14:22 JFA会見室

 8月18日の午後14時。


 この時間にU17ワールドカップの合宿メンバーが発表されることとなっていた。


 しかし、この発表を巡っては、前日時点までSNSを中心に険悪な雰囲気が漂っていた。


「アジアを勝ったメンバーを外して刷新するのはどうなのか?」

「今時、ユースでもありえないのに、単一高校を中心にメンバーを組むなんて常識外過ぎる」

「しかも、インターハイ3回戦で負けたチームなのに」


 という批判めいた意見が多数飛んでいたからだ。



 高踏高校はチームもメンバーもSNSには一切関わり合いがないので、知らない世界の話であったが、代表に携わる者……例えば会長の古賀にとっては予想していたとはいえ、気の重い話であった。



 しかし、17日の18時以降、この流れが急速に変わっていった。


 まずは18時30分頃にボルシア・ヴェストファーレンの公式アカウントが『ヴェストファーレンU18は本日16時から高踏高校と親善試合を行い3-6で敗戦しました。応援していただいた皆様、ありがとうございました』というアナウンスを出した。


 飛び級制度で強力なタレントをしばしば排出するヴェストファーレンのユースに完勝。しかも、経過を見ると一旦0-6になってからの3-6である。普通に試合をしていた時間帯は高踏が圧倒していたらしいことが伺える。


 前日に上総ユースが敗戦していたこともあり、「やっぱり強いのでは?」という声が上がりだす。



 ここに翌18日の午前2時頃にイギリスのサッカージャーナリスト・フィル・ジョンソンがクロス(☩)でつぶやいた情報が重なった。


『コールズヒルのSDマリアーノ・ロッジが日本のハイスクール・サッカー界で快進撃を起こしているハルト・アマミヤと交渉。中長期的なアジア戦略と未来の指揮官の双方獲りを目指すか?』


 これに現地メディアが反応する。


『ロッジに問い合わせたところ「彼はサッカー界のクラウス・マケラだ。未来のマエストロだ」とコメントし、関心を有することと交渉したことについてオープンに認めた(そもそも彼が日本に行った時点で関心がないということがありえない)。ただ、現時点での契約はFIFA規約に反するのではないだろうか……?』


 この話に対する英国人の反応は「若い指揮官を取るのは面白い」、「あまりにギャンブルなのではないか」とまちまちであったが、日本では「プレミアのチームが高校生監督の興味?」という驚きとなって広がって行った。



 結果、日本時間の朝になる頃には、「高踏はマジで凄いのかもしれない」、「今の時点で騒ぐべきではなく、ひとまず様子を見てみるべきなのではないか?」という声が多数派となっていた。


 古賀はそうした動向について報告を受けてひとまず安心していた。


「気にしすぎていても仕方ないが、始動前から批判ばかりなのも気が滅入る。タイミングよく、高踏がポジティブな結果をあげてくれたのは良かった」

「ただ、天宮陽人がイングランドに行くことが決定すれば、日本サッカーは何をしているんだ、という協会批判が上がるかもしれませんよ」

「そんなことを言われても、プレミアリーグに就職することを拒むわけにもいかないだろう」

「……最終的にそうなるのは仕方ないにしても、こちらも条件は提示したという形は取ってもよいのでは?」

「……なるほど。U17の結果によっては、そういうことも考えておくか」


 

 14時ちょうど、古賀と峰木が会見場に姿を現した。


 U17なので、当然A代表の時ほど取材陣が多くないが、それでも平常のU17の時と比べると倍はいるだろう。それはワールドカップの前ということもあるのだろうが、どちらかというと朝のニュースに絡んだものと思える。


 しかし、朝の話題について古賀は付き合うつもりはない。そもそも分からないからだ。


『朝から話題になっております件については、協会も一切情報を有していないのでありまして、質問をされても回答のしようがありません。従いまして、質問としてあげていただかないようお願いいたします』


 あらかじめ釘をさし、本題へと入る。


『それでは8月24日からの合宿のメンバーについて峰木監督から発表してもらいます』



 マイクが峰木に渡される。


『それでは、24日からの合宿メンバーを発表します。GK垣野内峻多、沢元翔矢。DF角原善寿、原野重人、佃浩平、井塚マイケル。MFディエゴ・モラレス、高幡昇、楠原琉輝、上木葉尚樹、石代崇、小切間浩章。FW緒方博哉、七瀬祐昇、城本寛紀。以上です』

『15人ですか?』


 取材陣からの質問に峰木が短く「そうです」と答える。



 小さくないどよめきがあがる。


 選ばれたのは高校生からは8人、ユース組からは7人の計15人である。


 U17ワールドカップの登録は21人。サポートメンバーを含めれば24人程度になることが想定されている。


 本大会まで2か月ちょっとの段階の合宿であるから、事実上の最終合宿だ。


 海外組は星名太陽1人であろうから、これを入れると16人。となると、サポートメンバーも含めれば8人は高踏から呼ぶことが想定されることとなる。


「本気で高踏からかなりの人数を呼ぶつもりのようだ」


 峰木のコメントが本気のものだったということを改めて理解する。



 更に24日から5日間で親善試合などは一切組んでいない。


 あくまで高踏高校との紅白戦をメインにした戦術消化と強化練習にあてるつもりのようだ。




※クラウス・マケラ

 1996年生まれのフィンランド人指揮者。10代から指揮者として頭角を現し、20代でトップ指揮者の1人として活躍している。2027年からは世界三大オーケストラの一つロイヤル・コンセルトヘボウの首席指揮者となることが内定。


※ユース組は垣野内、沢元、角原、原野、井塚、ディエゴ、緒方。


※残りは佃、石代、小切間、七瀬が北日本。高幡、楠原が武州総合。上木葉と城本は洛東平安。

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