8月16日 18:46 千葉県鴨川市試合会場

 親善リーグ戦の初日。


 8月の千葉であるが、外房・鴨川は夕方になってくると涼しくなってくる。


 16時から第一試合、18時から第二試合というスケジュールで開催される。


 まず、上総U18とボルシア・ヴェストファーレンU18の試合が行われるが。



「うわぁ、デカいなぁ」

「あれだけ長い手足でスピードもあるのは厄介だな」


 若手育成に定評があり、世界中から有望な選手が集まってくるだけあって、全員が大きいし速い。


「でも、それほどテクニックはない選手も多いね」


 落ち着いて見ていると、そういう見方もできるが、それでも存在感や胸の厚さ、スピードには驚かされるばかりで、「こんな面々と試合をして大丈夫なのか?」という思いにもなってくる。


 そんな相手に対して、上総は押される一方で、終わってみれば0-3。ボルシア・ヴェストファーレンの完勝となった。



 その間、スタンドの隣にはコールズヒルの選手達がいる。


 ヴェストファーレンと比較すると世界中から集まっているという感はないが、体格の立派さは負けていない。


(……吹き飛ばされそうだけど、良い経験になるだろうなぁ)


 陽人はそう思ったし、実際に試合前にもそう伝える。


「結果云々は考えても仕方ないし、思い切りぶつかっていけばいい。ただ、体力差は相当にあるだろうから、ケガしそうなら早めに申し出ること」


 そう言って、一年生の選手達を送り出した。



 GK水田明楽

 DF神田響太、神沢功志郎、神津洋典、田中尚人

 MF弦本龍一、戎翔輝、栗畑智之

 FW司城蒼佑、浅川光琴、加藤賢也



 このメンバーで一番大きいのは浅川と神津だが、コールズヒルに入ると9番目10番目くらいになる。もっとも背の低い戎などは大人と子供のように見えるほどだ。


 しかし、この子供にしか見えない戎が開始直後に大きな仕事をする。


 恐らくは舐めているのだろう、それほど圧力をかけてこないコールズヒルに対して開始直後に仕掛けた。


「おおぉっ!?」


 今度は観戦側に回っているヴェストファーレンと上総のメンバーから歓声が起こった。


 キックオフ直後、神津から戎、弦本に渡った後、左サイドをあがる神田に渡り、そこから更に戎に流れ、司城とワンツーをかわしてエリア内に入ると、右に流す。入ってきた加藤の前には、ドリブルでかわすべき相手がいない。シュートを打っていきなり先制。


 これが全てワンタッチ。開幕からワンタッチパスの連続でいきなりゴールを陥れたことに全員が驚きを隠さない。


「コールズヒルの連中が多少舐めていたとはいえ、何という展開だ」

「凄いパスサッカーだが、コールズヒルもこれで目を覚ますんじゃないか?」


 スタンドから聞こえてきた通り、コールズヒルの選手達の顔つきが明らかに変わった。試合再開からパワー全開、高踏側のプレスを力づくでかわそうとする。戎や栗畑が足をかけても、無理矢理突き進んでいく。


 それでも2人、3人と寄るとやはり厳しいのだろう。前に簡単に出してきた。


 総体で出ていた源平と変わらないような体格のFWが大きく飛び、競り合おうと神津が飛ぶ。


「セカンドボール!」、「こぼれ球しっかり!」


 高踏ベンチの兄妹が異口同音の声を出す。不利でも神津が競った分、こぼれ球になるはずで、それをきちんと拾えるかどうか……


「おぉっ?」


 しかし、競り合いで勝ったのは神津の方だ。痩身の関取のようなコールズヒルのFWが姿勢を崩して地面に落ち、神津がヘディングでクリアする。



 前半はこれを皮切りに、高踏が押していく。加藤のドリブルも中々効いているようで、取られても二次攻撃に向けてのプレスがかかってくる。


 たまにボールを奪われても相手はプレスを嫌って放り込んでくる。ところがこれを神津が全て競り勝つものだから、コールズヒルは攻め手を確保できない。偶々相手FWが不調なのかとも思ったが、別の選手との競り合いでも負けない。


「神津って、あんなに強かったっけ?」


 陽人は首を傾げるばかりだ。


 まさか海外の屈強そうなFW相手に高踏DFが普通に競り勝つというのは想定外である。


 それは相手も同じなのだろう。あまりに一方的なのでコールズヒルの監督が激怒している。英語なのではっきり聞き取れないが、「やる気があるのか?」あたりから始まり、「おまえは日本に残って競り合いの勉強をしろ。向こうのDFをイギリスに連れて帰る」など散々な言いようだ。



 神津が勝てると分かったことで、普段より低めだったDFラインも強気に上がってきた。それと共におなじみの「水田、前~」という結菜のお経のような指示も始まる。


 中盤では戎と弦本が影のように動き回り、相手が捉え切れていない。


 ボルシア・ヴェストファーレンと比べて、やはり若干選手の質は劣るのだろう。プレスがかかる中では必ず大小のミスが出る。そのミスをチーム全員が逃さない。



 優勢だが得点は1点のままだ。最終ラインの巨大な壁は中々突破できない。開始直後は油断していたのだろう。しっかり揃うと厳しい。


 また、浅川の順応がまだまだであるし、1年組でも目立つ能力がない栗畑と田中のところはやはり厳しい。


 それでも、前半は1-0で折り返した。



「ナイスゲーム。十分だ」


 もちろん粗を探せばあるものの、海外のプロチーム、しかも2つ年上相手に1年軍団がリードしてきちんとしたサッカーをしているだけで十分すぎる。


 仮に後半力尽きて逆転されたとしても、そこは体力を更につければ良いだけのことだ。


 一方、コールズヒルの監督は激怒している。元々そういうオーバーリアクションの監督のようだが、真っ赤になって怒る様は赤鬼のようだ。


「プレーもなければ魂もない、何たる有様だ! 全員交代だ!」

「えっ?」


 コールズヒルの監督が運営役の鈴木に「9人じゃない。全員交代させてくれ」と要望している。


 陽人が「9人まで交代させてください」と提言した時には嫌そうな顔をしていた鈴木であるが、まさかの海外チームからの提案である。渋々陽人のところに近づいてきた。


「ああ言っているけど、いいかな?」

「構いませんよ、別に……」




おまけ:インターハイの結果

https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093081182784752

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