8月6日 9:18 総体試合会場
3回戦、高踏対武州総合の試合は朝のスタート。
ではあるが、この日も朝から周辺では30度を超えている。
「今日も暑そうだなぁ。少しでも海風が吹けばいいのだが」
風が強いとサッカーそのものはやりづらくなるが、それでも暑いよりはマシだ。
8時40分に会場に入ると、注目のカードであるせいかこれまでより観衆が多い。
「高踏、頑張れよー」
応援の声もあちこちから聞こえてくる。
グラウンドに入り、先にアップを10分ほど行っていると武州総合も入ってきた。
「えっ?」
その瞬間、大きなブーイングが起きた。高踏のメンバーが思わず顔を見合わせる。
「何で?」
1回戦で今原学園がブーイングを受けたとは聞いているが、それは部員が自殺するという事態があったからだ。だから、ブーイングして良いかはともかく、したくなる者がいたとしても仕方ない。
しかし、武州総合は当人達が何かしたわけではない。
確かに日程が有利になって、公平でない状況になったが、それは彼らの責任ではない。少なくともここまでブーイングされるほどのことをしたわけではない。
だが、武州総合はブーイングされて驚くわけでもない。淡々とした様子で、ある程度予想していたらしい。
それどころか。
「何だと!?」
真田が思わず声をあげた。先頭にいた武州総合監督の仁紫がニヤッと笑って両手を上げ下げする。まるでもっとブーイングしてくれ、と言っているかのようである。
実際、ブーイングが更に大きくなった。
「おいおい、天宮。あのオッさん、観客を煽っているぞ!?」
「先生、何で羨ましそうに言ってるんですか……」
陽人は呆れ返る。
真田は冬の選手権で酔客と揉め、ペットボトルを投げつけられたことがあった。
にも関わらず、真田も「トラブルになった」という理由で出場停止になった。観客に対してあまり良い思いを持っていない。
だから、観衆に対して公然と挑発している仁紫に対して、「自分はダメだったのに何故彼はOKなんだ?」という思いがあるようだ。
「あと、相手の監督をオッさんとか言ったらダメですよ」
「でも、ズルくないか? 向こうはキャリアもあるんだろうが、観客と喧嘩できるなんて」
「そこ、羨むところじゃないですから」
陽人だけでなく、後田や結菜もツッコミを入れるが、真田の奇妙な発言にチームの雰囲気が和む。
ブーイングの多いピリつく空気にも慣れたようだ。
程なくしてスターティングメンバーが発表されるが、ここでも武州総合にはブーイングが飛んでいる。先ほど、監督が煽ったこともあるし、一番やりやすいタイミングということもあり、控室にも聞こえてくるほどだ。
「武州総合で特に注意すべきは……」
ブーイングの合間合間を縫って、改めて高幡舞から話を受ける。
最大の脅威はもちろん肺が7つあると言われている彼女の兄・高幡昇であるが、メンバー外。
「前線でもっとも要注意なのがスーパーサブの源平さんですね。体重100キロというJリーグでもまずいない超重量級でパワーが桁違いですが、動きも機敏です」
重すぎるため、フル出場には膝や足首が耐えられないと評価されていて、何度かダイエットにも挑戦したようだが体質的に無理らしく、スーパーサブとなっている。
「更に古郡さんは100メートル10秒台の快足です。雑な測定だと思いますが」
サッカー選手の速さは陸上のそれとは違う。スタートの仕方も違うし、スピードに乗り始めてから数えることもある。あくまで参考値にしかならない。
とはいえ、それでも10秒台というのは凄い。過去に対戦したことがない快足の持ち主であることは間違いない。。
「その分、よりパスを出させないようにしないと、な」
もっとも、今までも走り合いで勝てない選手とは多く対戦している。
そもそも、高踏のディフェンスラインは立神と今回メンバー外の石狩以外は決して早くはない。そうした相手に対して、チームで守って今に至っているのだ。
「ゴーグルを掛けている楠原さんは、兄貴が一番の相棒と言う存在で、陸平さんタイプの気の利く選手です。最後にDFの紺谷さん。当たりの強さはありませんが、速くてキックも正確です。GKの清井さんはあまり前に出るタイプではないので、ラインは深めです。ただ、ドン引きで守ることはしないと思います」
「OK、まぁ、いつも通りに行けば良いということだね」
これまで同様、試合前に徹底した指示は行わない。
注意するのは一点だけだ。
「今日の左サイドはかなり変わっているけど、練習ではやっている形だと思うから、慌てず行ってほしい」
稲城が苦笑して答えた。
「練習では、この布陣の10倍訳がわからないことをやらされていますからねぇ」
高踏高校
GK:鹿海
DF:立神、武根、神沢、曽根本
MF:園口、久村、稲城
FW:颯田、浅川、瑞江
武州総合高校
GK:清井
DF:出沢、紺谷、井上、上門
MF:徳宮、坂峯、楠原、志田、本山
FW:古郡
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