8月4日 10:25 総体試合会場
ハーフタイムの終わり際、峰木の電話が鳴った。
『古賀です。いま、どこにいますか?』
「中央の、高踏高校の選手達のいるあたりです」
『こしつ席まで来てもらえませんか?』
「分かりました」
と、答えて峰木は鼻を鳴らした。
「個室席があるのか。この歳になるまでそんなことは知らなかったよ」
係に場所を尋ねて中央にある個室席に入った。
そこに協会会長・古賀の姿がある。
「中々良いようですね」
スコアボードを見つめて言った。
「実際に見るともっとよいかもしれませんよ」
峰木の言葉に、笑みを浮かべて言った。
「そうあって欲しいものです」
後半が始まった。
浜松学園の奮起が期待されるが、中々うまくいかない。
5分が過ぎて、高踏が悠々とボールを回している。
「浜松は負ければ明日がないのだし、出し惜しみしても仕方ないのだが」
古賀が言う。そういう風に見えたらしい。
確かにそういう風にも見える。峰木も最初はそう思った。
しかし、出し惜しみをしているというわけではない。
個々は奮闘しているが、高踏レベルでのチーム戦術がないのでどうしても無駄なロスが出る。ロスなく動いている高踏と比較して出し惜しみがあるように見えるだけだ。
「過密日程で対策の余裕もない。しかも、対策したからと言ってその通り来るとも限らない」
先ほど聖恵が言っていたように、主力選手は存在している。
しかし、陽人は必ず同時に併用しなければならないと考えているわけではない。
レギュラー格のセンターバックと見られていた林崎を過密日程だけを理由に外しているのはその典型だ。
だから、研究もしきれない。弦本のように突然起用された1年が普通にやれているし、相手の狙い目になっていると見るや囮に使って労力を使わせる嫌らしさもある。
「日本が世界で勝ち抜くには、こういう戦い方が必要なのではないかと思います」
峰木が言う。
「個人個人で追いついている選手はおりますが、全体的に見て日本はまだ体力面やフィジカル面でトップ国と差があります。となると、コンディションの良い選手を優先的に使い、常に相手より動ける状態にしなければならないでしょう」
ただし、コンディションの良い選手を並べただけでは無闇に走り回るだけ。
今の浜松学園のような無駄走りになってしまう。
「多くの選手を起用し、しかも誰が出ても同じような戦い方ができるチームを作りたいところですが」
そんなチームは世界中探しても数えるほどしかないだろう。
ましてや、一緒にいる時間の少ない代表チーム、しかもフル代表ではなく世代別となると考えることすら夢物語のようである。
それがひょっとすると出来るかもしれないチームが、ここにある。
それが峰木の見立てである。
「……本音を言うと危険な賭けと感じています」
古賀は渋い顔を示す。
「しかし、一度試してみるべき賭けとも言えるのも事実です。この世代は若干落ちると見られていましたが、前任の関谷君の下でも目を見張る試合が何試合かありました。その主戦が高校生だったのも事実ですし」
そこで一旦切り、大きくため息をつく。
「何より高踏高校にはまだ一年以上あるという現実が無視できません。プロチームでも一年あれば大きく出入りがある昨今、この同じメンバーで更に一年成長していけば、凄いことになるでしょうね」
「そうです。この上の年代でも続けていける可能性があります」
この先のU20、オリンピック代表、フル代表まで繋いでいける可能性がある。
古賀は苦笑した。
「そこまで世代がジャックされてしまうと、逆に日本の未来が心配になります」
「そうですね」
「とはいえ、直近を考えれば仕方ないでしょう。しかし、具体的にどのくらい呼ぶつもりなのです?」
「会長の目に、こいつは絶対に欠かせないと思ったのは何人います?」
古賀は少し考える。
「そうですね。高踏以外のメンバーだとGKの垣野内、MFの高幡、FWの星名でしょうか」
「であれば、極論すれば残りの18人となりますね」
本大会の登録メンバーは21人。
不可欠な選手が3人なら、残り18人はコンセプトに従って選ぶこととなる。
「もちろん、そこまで極端にならないことを願っています」
峰木は全く真顔で言う。
冗談ではないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます