6月23日 16:24 部室
翌23日。
7月5日から開催される17歳以下のアジアカップに出る日本代表メンバーが選出された。
「あ~、やっぱり3人とも選ばれちゃったわねぇ」
瑞江、立神、陸平の名前を見て、結菜が落胆の声をあげる。
アジアの大会に臨む日本代表の目標はもちろん優勝である。
そこまで行けなかったとしても、最低限、ワールドカップに出られる準決勝までは行かなければならない。
決勝戦は7月22日開催。準決勝は19日だ。ここまで残ったとなると、インターハイ本大会まで1週間もない。
「とはいえ、こればかりは高踏だけの話でもないし」
3人いるのは高踏だけだが、1人選ばれているチームは他にも多い。
放課後、練習が始まる前の話題もそれに集中する。
「代表に呼ばれるのは名誉なことなんだろうけれど……」
瑞江が本音を口にする。
「負担だけ大きいんだよなぁ。練習時間も少ないからぶっつけ本番で試合だけがハードだし」
やむをえないことであるが、代表のスケジュールは時間に余裕がない。
アジアでの戦いとはいっても、じっくり合宿をというわけにはいかない。今回はそれでも10日弱の準備期間があるが、それでも10日弱である。
「ここの雰囲気でパス出したら全然違うところに味方がいるからなぁ」
「翔馬か怜喜に出せばいいんじゃないのか?」
陽人が冗談めいていうと、「そういうわけにもいかないよ」と呆れられる。
「そればかりやっていたら、そこを狙われるだろうからな。ここだとパスミスしても叩かれないけど、代表でやって失点でもしたら目茶苦茶叩かれる。おまけに余計なことを言った人もいるし」
思い出したくもないという顔になった。
余計なことを言った人というのは、西海大伯耆からJリーガーとなった大野弘人のことである。スーパーサブとしての地位を確保し、ここまで日本人3位の6点をあげている彼が、取材の中で「(自分がいなくなった後の)高校サッカーは瑞江が引っ張るだろう」とコメントしたらしい。
大野本人としては、選手権で共に取材を受けることがあったことで期待しているのかもしれない。しかし、言われた瑞江本人は更に期待が大きくなったわけで、迷惑な話と受け取っている。
「アジアでの大会となったらまた変わるのかもしれないけど、今までの試合では、全員自分の結果が欲しくてほしくて仕方ないって感じだったからなぁ。そんな中で負担ばかり負わされるのはたまらん」
「でも、その中で達樹は結果を出したわけじゃん」
今年の3月から3試合招集されて、ゴールかアシストという点に直結している仕事をどの試合でも見せている。当初「FWはタレントが多いから、瑞江はポジションをつかめないかも」と見ていたが、現在では一番確固たる扱いを受けている。
「みんな結果を出したいからある程度動きが分かる。それに応じて動けばアシストパスは簡単だからな」
「俺、瑞江さんのそのサクッとアシストに切り替えられる思考パターンが凄いと思うんですよね」
司城が絡んできた。
「俺なんかもタイプ的には万能的って言われていますけれど、やっぱりどうしてもゴール決めたいって思っちゃいます。代表の瑞江さんは点も取りますし、かっこいいパスも通しているイメージですもんね」
司城の評価はそうだが、陽人はあまり不思議だとは思わない。
瑞江はバスケットの方が好きだが、バスケットをやるには身長が低い。
同級生同士でプレーするとともかく自分の背丈を客観的に考えるとポイントガードなどパスを出す選手の方になる。競技は違うがパスを出すマインドは強い。
それを説明すると、他競技というと、と瑞江が話を続ける。
「誰とは言わないけど、『こいつサッカーじゃなくて野球をやった方が良いんじゃないか?』って思うのは結構いるな」
「野球? 何で?」
「やっぱり海外とかプロにアピールしたいんだろうけれど、自分のよさそうな形だけ待っているように見える人がいるんだよな……。形がある奴でもその形にするための布石なり何なり考えていくはずなのに、そういうのをすっ飛ばして自分の形ばかり待っている。形になればすごいけど、そうでないと全然ダメというか。そういうマインドでやっているのなら、出番が確実に回ってくる野球でもやった方がいいんじゃないかって」
まさに陽人が言っていたことだけど、と追加する。
「結局、どれだけすごい選手でもボールを持つ時間は1試合2分程度なわけで残りの88分はそれ以外のことをするわけじゃん。そこがどうも雑っていうか、高踏と違うというか。みんな能力も凄いしボール持っても凄いんだけど、何か違うな~というのは試合中ずっと思っている」
「代表でそんなことを考えられるのはすごいですね。俺はそんなこと考えたことがなかったです。と言っても、代表合宿に一回呼ばれただけですけど」
感心している司城に、瑞江がニヤッと笑いかける。
「色々見ながらプレーしていたら、おまえもそうなれるはずだよ。俺は来年楽をしたいからもっと成長して代わりに走れるようになってくれ」
「いや、それはおかしくないっすか?」
司城が苦笑しながら言う。
「さっき、自分のやりたいことだけやろうとしていて野球でもやった方が良い奴が沢山いるって言っていたじゃないですか。俺に走らせて自分が楽をしようとしているなら、瑞江さんもそいつらと同じで野球にした方がいいですよ?」
「あぁ、そういえばそうだ。これは一本取られたな」
瑞江は笑いながら、自分の頭をパシッと叩いた。
注:昨日の話は当初29日でしたが、代表大会の日程との兼ね合いで22日に変更しました。総体予選の抽選もそれに合わせて早めたということで……(^^;)
また2023年のタイでの大会は6月、2025年のサウジアラビアでの大会は4月開催だそうで7月なのは変ですが、スケジュールが重なりまくるのも面倒なのでこういう日程なのだ、ということで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます