6月22日 16:50 部室
6月下旬のこの日。
夕方に、翌月末から開催されるインターハイ本戦の抽選が行われた。
今回は、選手権の時と異なり、陽人達選手が会場に行くことはない。
真田に向かってもらい、結果を待つだけである。
夕方、部室で待つ陽人達のところに真田からメールが送られてきた。
まず、「あ~」という落胆の声が漏れる。
「今回も一回戦からか……」
日程が過密なだけに、上に行くとなればできれば二回戦から出たかったが、叶わなかった。
その一回戦、対戦相手は奈良県の飛鳥四高である。
「何と、聞いたことがないですね」
細かい情報に詳しいマネージャーの高幡舞もびっくりして、調べ始める。
「……ノーシードから勝ち上がってきたところですね。これという選手はいませんが、チーム力の高さで上がってきたようです」
「なるほど。去年のうちみたいなところか」
「スコアは2-1とか接戦が多いですので、物凄く強いというよりは粘り強いタイプのチームと見ました。そして、ここに勝ち上がりますと……」
高幡は勝つ前提で、隣のブロックを見た。
全員の視線がそちらに向き、「ありゃ」という顔になる。
「これは恐らく浜松学園でしょうね……」
隣のブロックは浜松学園と下関航空の試合が組まれている。
高幡の言うように、戦力を考えると浜松学園だろう。
となると2回戦では東海総体決勝で顔合わせをしたばかりの浜松学園との対戦が濃厚だ。
「今回は向こうも本気で来るだろうなぁ」
「そして浜松学園に勝ちますと……」
高幡はどんどん先を見据えていく。
「おおっ、三回戦で私イチ推しの武州総合との対戦ですね」
「確かに。武州総合は二回戦からだから、日程的にはちょっと不利だな」
「武州総合は強いですからね。ここは浜松学園のようにはいきませんよ……」
「今はいいけど、試合では高踏を応援してよ」
本当にイチ推しなのだろうが、高幡は「ここは本当に強い」と鼻息が荒い。
ただ、部室ではともかく試合会場で武州総合が強いと言っていると、周囲の部員やマネージャーの顰蹙を買うかもしれない。
「武州総合に勝ちますと、八強は弘陽学館の可能性が高そうですね」
「さすがにそこまで先に行くと鬼が笑いそうだが……」
実現すると、選手権以来でまた八強で弘陽学館ということになる。
「準決勝の相手は……東京の京応実業でしょうか。北日本短大付属と当たるのは決勝戦になりそうですね」
北日本短大付属は反対側のトーナメントにいる。
実力的な前評判に従うのなら高幡の言う通りになるだろうが。
「日程がきついからね。正直、どうなるか分からない。相手ももちろんそうだし、俺達自身もそうだ」
最大八日で六試合という日程の前には、多少の実力差は簡単に覆る。
疲れすぎないよう、相手に勝てる最小限の力を出して進んでいけるマネージメント力をもつチームが勝つことになるのだろう。
予選の展望が終わると、高幡はお役御免とばかりに外に出て行った。また中学生の試合結果を確認するつもりのようだ。全く関係ないことなのに毎日毎日よく頑張るものだと、陽人は感心する。
結菜が話題を変えた。
「インターハイの日程はそれでいいとして、そろそろ試合のキャプテンをしっかり決めておいた方が良いんじゃない?」
「キャプテンか」
高踏サッカー部の主将は陽人である。
選手権でも、出ている試合については陽人がキャプテンマークをつけていた。
今年度の陽人は選手登録をしていないから試合では別にキャプテンを決める必要があるが、今のところ持ちまわりに近いような形になっていた。
そもそも、高踏は試合ごとにメンバーが全員変わることもあるし、個々がやらなければいけないことが多いため、敢えてキャプテンという役割を置く必要性が小さい。
とはいえ、苦しい試合展開で誰かが精神的に引っ張る必要も出て来る。
「……じゃ、まずはアンケートといこう」
陽人は記憶用のカードを取り出して、場にいる全員に渡した。
それぞれ記載して、一斉に広げる。
「俺と雄大と卯月さんは耀太、結菜と我妻さんは達樹、辻君と高梨は優貴」
候補は3人に絞られたが、全員にそれなりの理由がある。
鹿海はキーパーとフォワードができるので、ほとんどの試合に出るだろう点。やはり試合に出ている選手がキャプテンマークをつけているべきと考えれば、鹿海となる。
瑞江に関しては、実力でチームを引っ張っているという点がある。それは立神と陸平にも言えるところだが、ゴールという目に見える形があるのは大きい。
ただ、瑞江には難点もある。
「どうしてもあいつは目立つし、取材も多いと思うからな。キャプテンの負担まで負わせたくないんだが」
「そっか……、確かに」
性格的にも問題ないが、代表にも呼ばれる、取材にも呼ばれる、キャプテンまでやらされるというのは大変だろう。
「耀太は大分昔とはいえ全国経験もあるし、チームを引っ張ることに慣れているのはあるだろう。代表とか他の負担はないから一番良いんじゃないかと思うんだよな」
「3:2だから、本人達も交えて話をして、決めるのがいいのかな?」
「そうするか」
結菜の提案を受け、土曜日の朝にでも話をすることにした。
「ついでに1年も候補を決めておくか」
と、再度記憶カードを渡して、それぞれが書き込む。
こちらは全員が司城蒼佑だった。
ジュニアユースでの経験もあるし、実力も申し分がない。本人主導で神津と戎を引っ張ってきたリーダーシップもある。
「じゃ、これはほぼ確定という形で話をするか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます