5月19日 14:51 部室
総体予選準々決勝がハーフタイムを迎えていた頃、陽人は後田と結菜とともにメンバーの選定にあたっていた。
先週のリーグ戦がそうであったように、これまでメンバーの選定は直前にパッとフィーリングで決まっていた。
しかし、来週の総体予選準決勝はそういうわけにはいかない。
この試合は一試合のみで、総体予選の登録メンバーは20人。
サッカー部にいるのは現在34人であるから、14人を外す必要がある。
強豪校にとっては当たり前のことであるが、高踏では初めてのことだ。陽人と後田はともかく、昨季の選手権の時に一試合、林崎がスタンドに行った時だけである。ただ、このとき林崎は前の試合に出ており、過密日程ゆえに外れていた。
本格的にメンバーを外して、スタンドから観戦させるのは初めてのこととなる。
もちろんある程度立ち位置は理解しているだろうが、それでも外されてスタンドから観戦というのは面白くないだろう。これは適当に選ぶわけにはいかない。
「怪我人が出なければ、来週の試合では怜喜と戎を併用してみたいと思う」
まずスタメン選定からだ。陽人は中盤から説明を始めた。
「戎はもつかな?」
「もたない。だから、疲れたところで真治と替える予定だ」
戎はセンスこそ抜群だがフィジカルが弱いため60分以上は厳しい。一方、戸狩は速筋系の体質であるため30分を超えると極端にパフォーマンスが落ちる。ならば、この2人を1人として捉えてリレー的な起用にすれば良い。
「2人は若干タイプが違うが、怜喜がいるならバランスは崩れないだろう。もう1人の中盤を誰にするかはまだ決めていないが、(鈴原)真人、(芦ケ原)隆義、司城あたりで考えている」
「異議なし」
結菜が頷き、テーブルの上に名前を連ねていく。
「他は今のところ、Aチームをそのままと考えている。あと、四月以降入部は厳しいかな」
入学式以降の入部は9人いたが、残っているのは4人。GK真榊弥太郎、DF田中尚人、MF栗畑智之、FW大井幸広だが、練習についていくのが精いっぱいで戦力としてはまだ遠い。
「残りは……」
後田が書き連ねていく。
GKは須貝、水田。ただ、登録メンバーを考えればここは須貝になる。
DFは曽根本、石狩、道明寺、南羽、神津、神沢、神田の7人。
MFは久村、弦本、聖恵。
FWは櫛木、篠倉、加藤、浅川から選ぶことになる。
「ここから5人となると、緊急時の控えが優先されるから、久村と神津は確定かな」
交代要員に求められる役割は戦術的なオプションになるかという点と、緊急時の処置に応えられるかという部分だ。特に後者の部分では故障や退場といったアクシデントはどの選手に発生するかその時まで分からない。だから、ユーティリティープレイヤーが求められる。
「これを満たすのは、久村さんと曽根本さん、神津君かしら」
役割は守備的だが前線のプレスからCBまでこなせる久村、左サイドならどこでもできる曽根本、バックラインから中盤もこなせる神津、この3人も有用だ。
「ちょっと待って。戸狩さん、中盤2人、須貝さんに加えて3人をベンチに入れたら、残りは2人?」
「少ないな。ポジションで見ると……」
ユーティリティープレイヤーは全員後方ができる。中盤も2人余って戸狩もいるとなると、残り2枠は必然的に前線となる。
「高さとキープ力という点で(篠倉)純は外せないな。残る1枠……」
強さの櫛木、ドリブルの加藤、スピードのある浅川。
「……」
陽人はちらっと結菜を見た。
陽人が頭の中でまず外したのは浅川光琴である。本人の問題というよりはチーム戦術との兼ね合いだ。スペースがある時の走破力は捨てがたいが、スペースがないと活躍できない。
後田に視線を向けると、彼も言いづらそうな様子で結菜をチラチラと見ている。どうやら同じ考えらしい。
何故結菜を見るかというと、浅川は結菜と我妻、辻が誘ったから来たという経緯がある。「一緒にやろうよ」と誘いながら、ベンチからも外すというのはいかがなものか。
「……私なら加藤君かな。あれ、どうしたの?」
視線に気づいたようで、結菜がけげんな顔をする。
「いや、浅川君を外すのはいいのかなぁと」
「それは仕方ないでしょ」
結菜はあっさりと答えた。
「何も今回で最後というわけでもないし。実際に戦術的に機能していないんだから、どうしようもないでしょ。むしろお情けで選んで『これでもいいんだ』って思わせる方が本人のためにならないじゃない。足りないんだからそこははっきりとした意思表示をすべき。昔の横綱も言っていたらしいわ。近い人間こそ厳しくしないと、と」
「それならまあ……。最後は加藤か」
妹の選択を確認し、陽人は後田にも確認した。
「この2人は選びづらいなぁ。展開によって変わりそうだし」
「同感だ」
本人のプレーが崩しているシーンはないのだが、ドリブルしかしないわりに加藤が足を引っ張っている印象は少ない。
一方の櫛木はラグビー出身ゆえに個人の力に不安があったが、さすがに1年近くが経ち自分の体の使いつつボールをおさめる術をものにしつつある。当たりの強さだけならチーム一であり、外しづらい。
「この2人は相手に応じて決めようか。ちょうど辻君と末松が見に行っているし」
「りょーかい。私が電話する」
結菜が携帯電話を取り出して、辻に電話をかける。
「あのさ、今どんな感じ? 0-0? 来週の試合で、櫛木さんと加藤君とどっちがより効果がありそうか見てくれない?」
気軽な言葉を受けて、電話の向こうがにわかに慌てたのが聞き取れる。微かに「いきなりそんなことを言われても」という声が聞こえたように思えた。
「これで大丈夫でしょ」
結菜が電話を切る。
「まあ、そうかな……」
不安はあるものの、ひとまず辻と末松の意見を聞くのが良いだろう。
と思ったのだが、結果的には2人の連絡は不要となった。
「おーい、天宮、いるか?」
真田がそう言って、唐突に入ってきた。
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