5月10日 18:20 部室
連休も明けた10日の夕方。
高踏高校の部室では、陽人と結菜、後田と我妻、辻といった面々が集まり、週末のリーグ戦メンバーの選考にあたっていた。
明日の午前中までにベンチ入りメンバー登録をしておく必要があるのだが、前日に瑞江、立神、陸平の三人がアンダー17代表に呼ばれて不在になったため、Aチームに3人追加しなければならなくなったためである。
対戦相手は珊内実業。
昨年までは4強の一角と呼ばれていた強敵ではあるが、現時点では「高踏の方が1枚、2枚上ではないか」という評価となっている。
とはいえ、それはもちろんフルメンバーである前提だ。
「戦力的なことはもちろん、Aチームにとって3人ともいないというのは初めてだから、連携面でも問題になってきそうだ。果たして誰を入れれば良いだろうか?」
ここ数日、練習では多少、不在となる3人を意識した練習にはしている。
とはいえ、「代役は●〇」と安易に決めたくもない。色々な可能性を模索したいため、登録ギリギリまで様子を見ることにしていた。
まずは後田が極めて順当な案を出す。
「順当にポジションを埋めるなら、怜喜のところは(久村)護、翔馬のところは(南羽)聡太、達樹のところは(篠倉)純になるかな」
「でも、南羽先輩と篠倉先輩は全くタイプが違いますし」
我妻がコメントし、結菜が「陸平さんと久村さんも違うわよ」と追加する。
「でも、3人と同じタイプはいませんよ。いれば、ウチにはもっと代表選手がいることになりますし」
辻がメンバー表を見ながら淡々と言った。
結菜が更に意見を追加する。
「Bチームは連携力が勝負だから、あまり崩すべきじゃないとも思うけど? 1年から上にあげてしまって良いんじゃないかしら?」
「1年からか……。まあ、確かに樫谷との練習試合でもBが一番苦戦していたしな」
勝ち負けにはこだわらない、という意識だったので結果そのものは気にしていない。
ただ、入れ替えが多いと一番崩れやすいのがサブチームであるのは確かである。Aチームはやはり主力だけあって個々人の能力で何とでもなるし、1年ばかりのCチームはそもそも完成度が低いから下がるものも低い。
「そうなると、瑞江さんの代わりは司城君かしらねぇ」
結菜の言葉に、全員が頷く。
1年の得点源は司城と浅川であるが、浅川は大きなスペースがあって輝くタイプで、相手が下がってスペースを潰している時に策がないという問題がある。押し込んでいる展開で対応できるのは司城の方だ。
「陸平さんのパス出しを考えるなら弦本君で、守備の部分を考えると神津君かなぁ」
弦本龍一はパスセンスと運動量の豊富さが武器であるが、競り合いには弱く、ポジショニングも的確ではない。
一方の神津洋典は全般的に能力が高く、これといった穴がない。一方で、逆にこれという武器もない問題がある。
「穴埋めとして考えれば神津がいいのでは」
総じて陸平の代役は神津という声があがるが、辻は異なる意見を出す。
「ただ、洋典に立神さんの右サイドを任せるのが良いのでは」
「そうか、立神先輩のところがいない……」
右サイドバックができる選手がいない。
陽人の直接の後輩である神田響介は左サイドバックである。「やれ」と言われればやるだろうが、立神のレベルは到底望むべくもない。それならば、ある程度の穴埋めになる神津の方が穴としては小さくなる。
「立神さんのところは神津君しかいないだろうから、そうなると中盤は弦本君かしら?」
大体の意見が出て来て、陽人に投げる。
「達樹と翔馬のところはそれで良いかなぁと思う。怜喜のところは弦本でもいいんだけど、以前本人が試合を見ていて戎のことを評価していたんだよな。だから、戎にしようかなとも思うんだが……」
「戎はちょっと体力に不安がありすぎないか?」
後田が難色を示す。
「まあ、それはそうなんだが」
陽人も認める。
戎翔輝は身長163センチで体重は56キロ、共にチームでは2番目に下だが、一番下にいる聖恵貴臣はここ1年でかなり成長しており、そのうち抜かれる公算が高い。
背丈と体重でサッカーをやるわけではないが、さすがに小さすぎる。
チームの要とも言うべき陸平のポジションを任せるにはさすがに難しいように見える。
「実際、ポジションセンスなどはニルディアのU15でもずば抜けているという評価だったけど、他があまりにも弱いという理由で落とされたらしいからね」
「でしょ。陸平さんと同居して使う分には良いのかもしれないけど」
結菜の言葉に、周囲も頷く。陽人も頷いた。
「そう思うのは自然だが、弦本ではカバーできないのは間違いない。厳密に言うと護でもそうだ。戎はいなければいけないポジションには入れるわけで、そこからどうするかは実際にやってみないと分からない。だから一度使ってみて、問題があるなら直そうと思う。幸いAチームは4連勝しているから、この試合負けたからどうなるってわけでもないし」
「まあ、陽人がそう言うのなら……」
後田も頷いた。
その後、10分ほど話し合い、週末の試合のスタメンが決まり、それに応じたメンバー表登録を行うこととなった。
Aチーム
GK 鹿海
DF 稲城、林崎、武根、神津
MF 戎、芦ケ原、鈴原
FW 颯田、司城、園口
Bチーム
GK 須貝
DF 南羽、石狩、道明寺、曽根本
MF 久村、加藤、神田
FW 篠倉、櫛木、浅川
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