4月28日 16:22 樫谷高校・部室内
4月28日の土曜日。
樫谷高校の部室では、藤沖が明日の試合に備えて高踏のここまでの三試合をプリントアウトしていた。
明日の試合は、オープンに打ち合うつもりでいるし、既にそのことを伝えている。
練習試合で遮二無二なって戦う必要はない。変に対策をして手の内がバレるのは面白くない。使えるものは後々あるかもしれない重要な一戦のために取っておくのが良いだろう。
ただ、それとは別に相手がどういう状況なのかは確認しておきたい。
4月6日にはじまった県のリーグ戦はここまで3試合。
本来ならこの日も日程が組まれているはずだが、高踏は試合がなかったらしい。
今年、高踏高校が特例で入れられたためにリーグの所属チームが奇数になった。そのため、1チーム試合を組めないところがあるということのようだ。
「Aチームは中日本ジュニアに4-1、長牧FCに6-0、先週は鉢花で3-1か。相変わらず点を取っているねぇ。やっぱり瑞江なのかな?」
得点者を確認した藤沖は「おっ」と声をあげる。
「どうかしたんですか?」
様子を見ていた新任の
「右ウイングの颯田が5点取っているのが最多だ。ちょっと意外だ」
「……選手権でも瑞江か戸狩という印象でしたからね」
「実質攻めに関しては違いを出せるのは瑞江だけという部分はある。戸狩も相手が疲れたところには効果的だろうけれど、スタートから出てあれだけ点が取れるかというと、ね。颯田は前線にいるけど守備が持ち味だったんだけどね」
颯田五樹は稲城希仁同様に、猛然と詰めるプレスと、後ろにスペースに一気に持ち込む能力に長けている。ただし、細かい技術はないし、シュートの選択肢もそれほど多くなかったはずだ。
「……考えられるのは、瑞江がマークされた時に颯田がフィニッシャーになれるような形を作り出したということか。出場メンバーはどうなっているのかな? おぉっと、これは」
メンバー表をプリントアウトして確認した藤沖は、大きくのけぞった。
「どうしたんですか?」
「いや、登録ポジションは適当かもしれないけど、色々大胆に試しているなぁと思ってさ」
一試合目こそ普通の布陣だったが、二試合目以降はかなり変わっている。
対長牧FC
GK鹿海
DF稲城、林崎、武根、立神
MF陸平、瑞江、鈴原
FW颯田、芦ケ原、園口
対鉢花
GK鹿海
DF稲城、林崎、武根、立神
MF陸平、瑞江、芦ケ原
FW颯田、鈴原、園口
「瑞江が中盤登録ですか?」
「彼は深戸戦とか西海大伯耆戦が典型だけど、マークがきつい時に下がってパスで切り崩していたシーンも多かった。勝てる相手に無双させても仕方ないし、敢えて中盤で起用しているのかもしれない。あとは左サイドだ」
昨季は左サイドバックに園口耀太を起用して、左ウイングに守備力の高い稲城を置いていた。この二試合を見ると逆になっているらしい。
ただし、昨季はサッカーに関しては初心者だった稲城の技術不足を考慮していた面もあったと聞いている。
「左サイドバックをできるくらいまで稲城のキック技術が上がったとなれば、テクニックのある園口を前に置いて、スピードとスタミナのある稲城をサイドバックにするのはむしろ当然かもしれない。樫谷にはいないけど、例えば深戸の下田対策でも有効だし」
下田竜也はスピードのある右ウイングだ。深戸学院と対戦する際には下田をどう止めるかが問題となる。
仮に深戸対高踏を想定した場合、下田は園口ならスピードで振り切れるだろう。しかし、稲城はそうはいかないはずだ。
「しかし、そんなにコロコロポジションを変えてチームとして機能するんですかね?」
「するだろうよ。選手権であの人数を必死であてはめたりしていたわけだし、多少ポジションを変えても問題ないくらいのサッカーIQを高めるような練習をしている」
藤沖は腕組みをした。
「これは参考にならないねぇ。リーグ戦でもこれだけあれこれ試しているなら、練習試合だともっとお試しモードになるだろう。それこそ瑞江がセンターバックで鹿海がフォワードをやっているかもしれない」
「鹿海は普通にフォワードやっていましたよ?」
桜塚の言う通り、弘陽学館戦ではフォワードとして出場し、まあまあ機能もしていた。
「……そうだったね。ちなみにBチームはどうだ? 3-3、1-0、1-1。おぉ、高踏らしからぬスコアだ」
「松葉商業に3点も取られたんですね」
「キーパー含めてバックラインが全員1年だね。第一節からまだ入学式も終わってないメンバーをズラッと並べるとは大胆な。そこからはさすがに修正しているけれど」
練習試合となると、このメンバーの登録も可能になるから、更に混沌としたチーム編成になっているかもしれない。
「負けようが関係ないし、1年も多数起用してくるかもしれないな」
そうなると、仮に対策をしたとしても、使えないかもしれない。
「試合をしないにしても、定期的にチェックしておかないといけなさそうだなぁ」
深戸学院がどういう試合をするのかはスコアから大体の想像がつく。指揮官の佐藤孝明は先輩であるし、知っている者が多いからだ。
高踏はそうはいかない。
アッと驚くようなことをしばしば仕掛けてくる。といって、決して奇想天外なことをしているわけではない。
セオリー外ではあるのだが、実は論理的であったりするのだから厄介だ。
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