4月9日 17:33 部室
解散した後、陽人と後田は名簿の整理をはじめた。
そこに卯月が資料のようなものを持ってくる。
真面目な彼女のことだ、ひょっとしたら新一年の女子生徒の資料でも短時間で作ったのかと思ったが、違ったらしい。
「天宮さん、これ、一年生の1人が作った資料です」
と出された資料は20ページほどのレポート用紙で、表紙には『今年高校選手権を勝ちそうなチーム』と書かれてある。
「ほう……?」
陽人も後田も、実は有力校の情報を分かっていない。
半信半疑で開いてみた。
最初のページにあるのは、優勝した北日本短大付属、準優勝の洛東平安でもない。
「埼玉の武州総合?」
昨年県大会決勝で敗退、リーグも3位であるが9人の2年生がそのまま主力となる今年は一気に躍進するのではないかと書かれてある。
次にベスト8で対戦した弘陽学館の名前がある。
昨年度の主力は卒業したが、層が厚いので今年も間違いなく上位進出してくる、とある。
その次に北日本短大付属だ。
「FWの棚倉と、中盤の重谷、筑下といった主力が卒業したが、選手権で育った七瀬、佃、石代らが主力になるので優勝した前年度より戦力はプラス」との評価がある。
「凄いな。これ、1人で作ったの?」
「
「試合を見ずに?」
とはいえ、日本全国のチームの状況を見ているとなると、勉強しながらではとても試合まで見ている時間はないはずだ。
それでもネットの中には色々な記事などがある。それらを整理してまとめれば試合に出ていなくても有力選手などの情報は分かるのだろう。
「元々は野球のドラフトが好きだったらしいのですが、志望校の高踏が全国大会出場するという話を聞いて、サッカーの資料作成に切り替えたそうです」
「それはまた何というか……」
とてつもないヲタク気質な子だ。
一体、どんな子なんだろうか。
「外見はさっぱりした子なんですよ。ショートカットで背も高くて、最初は女子サッカーやるつもりの子かなと思ったのですが」
「その外見でこれだけヲタク的な資料を作るというのは……」
まさに人は見た目によらない。
その間に後田がパラパラとめくっている。
「準優勝だった洛東平安は出てこないな」
「主力が一気に抜けたので、今年は京都を勝ちあがれないだろうと」
「鹿児島の薩摩学園、静岡の浜松学園、広島の福山凱昭。浜松学園はともかく、去年全国大会にいなかったチームを上位に持ってくるのは凄いな。お、ウチもある」
陽人も反応した。ヲタク気質の女子生徒に自校の評価がどうされているのか。
「チーム評価は?になっている。昨年全国ベスト4、今年は有力選手5人が加わり県内ではトップ候補、全国を勝てるかどうかは包囲網を打破できるか次第、とあるな」
「有力選手5人って誰?」
「司城蒼佑、浅川光琴、神津洋典、水田明楽、末松至輝だって。戎と加藤は説明がある」
司城蒼佑:ニルディアの次期エース候補。間違いなく県内サッカーを騒がせる逸材
浅川光琴:高踏にいなかったターゲットマンとなれるストライカー
神津洋典:最終ラインにボランチもこなす戦術理解度の高さがウリ
水田明楽:弱小チームを躍進させた突出した守護神。高踏の戦術とマッチするか。
末松至輝:3年時は負傷と監督との不和で棒に振る。自由な気風の高踏で復活なるか?
戎翔輝:センスは随一でどのポジションでもプレーできる。フィジカルが標準クラスになれば
加藤賢也:ドリブルは同世代ナンバーワン。その他の能力さえ伴えば……
明らかに気になる一点がある。
「……末松っていた?」
「いないよ。昨日までいなかったし、今日入ってきたのは3人しかいなかっただろ。GKの真榊に、DFの栗畑に、MFの田中」
「でも、ここには有力5選手ってなっているぞ」
「ここだけ間違いってことは……ないだろうなぁ」
これだけきっちり作られている。名前の変換ミスやちょっとした間違いくらいはあるかもしれないが、いない選手のことを書いたりはしないだろう。
「……説明文を読むと耀太と似ているし、初日から入ってくるタイプじゃないのかもしれないな」
園口耀太も小学生時代は期待されていたが、中学時代は伸び悩んで高踏にやってきた。彼もすぐには入部せずに、しばらく様子を見ていたうえで入部しているが……。
「耀太の場合は、藤沖監督の下でプレーすることを期待して高踏に来たら、まさかの交通事故で不在という理由があるからな。今年に関してはそういうのはないはずだが」
陽人がチーム作りをしていたということは既に明らかになっている。世間にアナウンスされている高踏サッカー部と、今のサッカー部が違うということはない。
「……まあ、しばらく様子を見てみようか」
昨年の園口も無理に誘い入れることはなかった。
有力選手かもしれないが、昨年1年を棒に振ったということは色々迷いもあるのかもしれない。
無理に引き入れたとすれば、かえってマイナスになる可能性もある。
「でも、一応結菜に聞いてみるか」
ひょっとしたら同じクラスにいるかもしれない。
本人がどういう状況なのか確認するくらいは悪くないだろう。
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