4月9日 15:00 部室
4月9日、月曜日。
この日、入学式を迎えるとあって、陽人はもちろん、多くの部員達も待機している。
既に10人の新一年生が登録しているし、試合に出たものすらいる。
ただ、それは早くから高踏高校に縁があった者達がほとんどだ。本格的な入部は今日からだろう。
「現在、既に14人いるのだし、もう15人くらい来るんじゃないだろうか」
「人数が多すぎると練習が行き届かない可能性があるかもしれないな」
「トレーニング班と練習班を分ける工夫が必要かもしれない」
事前にはそんなことを話し合っていた。
「もし、やる気のない部員が増えたらどうする?」
「未経験者もOKだが、あまりに下手すぎると困るなぁ」
と、良くない状況についても色々対策を練っておく。
「マネージャー候補も増えるといいですね」
隣では結菜と我妻、卯月と高梨が話をしている。
高踏高校の場合、洗濯をはじめ身の回りの事は部員個々がやるのでマネージャーの業務はそう多くはないものの、それでも水の買い出しやスケジュール管理などやることは多い。
あまり多いと困るが、もう二、三人は増えてほしい実情がある。
「データ班も欲しいところよねぇ」
「……マネージャー希望でやってきた女子部員をデータ班に回しても仕方ないだろ。どちらかというと新聞部とかそういう方に協力を頼んだ方が良いんじゃないか?」
そもそもは結菜や我妻、辻の三人は中学で映像研究会所属であった。
「それもそうか」
昨年まではサッカー部とラグビー部が山の上の方に構えていたが、ラグビー部が撤退したので校舎から離れたところに部室があるのはサッカー部のみである。
「入学式が行われる体育館近くに陣取るべきか」
という意見も出てきたが、「混雑を避けたい」というのと「せめて離れたところに来るくらいの意欲は持ってもらいたい」ということで、体育館近くにサッカー部へのルート案内を設置し、部室の前で待つことにした。
午前のうちに入部届やら飲み物などを用意し、入学式が終わるのを待つ。
そうこうして、午後になり、時間が過ぎる。
時計は午後2時を回った。
陽人と後田は暇そうに隣のテーブルを眺めている。
その隣にあるテーブル、卯月と高梨が座っているテーブルには一時間経ってもまだ列が途絶えない。
「……男は全然来ないな」
入学式は午前11時半に終わったらしい。その後、昼食をとったとしても、もう1時間以上経過している。
その間、男子部員はわずか3人。
女子は途中で数えるのをやめたが、30人を超えていそうである。
「……この格差は一体どこから来た?」
全国四強、というのは相当な敷居の高さを男子新入生に与えたらしい。
入学式前からサッカー部の門を叩くくらいの気概のある者は別として、その他普通の学生には「あんな強いしハードそうなところ、自分では無理だろう」という結論が出てしまったようだ。
一方で女子が集まった理由は。
「達樹にしろ、翔馬にしろ、怜喜や希仁も結構有名になったからな」
選手権の大活躍と、その後の代表候補招集で一気に全国区の人気を得てしまった。それを受けてミーハー気質の女子が大勢集まったようだ。
「あれだけいれば女子サッカーチームも出来るな」
「でも、彼女達はサッカーをプレーするためにサッカー部に来たわけではないだろう」
「……そうだな。しかし、あんなにマネージャーいるか? 結菜達もいるし、5人くらいで良くないかな?」
このままでは下手しなくても、選手1人につきマネージャー1人という図式が出来そうである。
「……まあ、洗濯とか炊事をしないといっても結構大変だし、自然と減っていくだろうけれど……」
3時前になり、ようやく女子テーブルも落ち着いた。
「去年は大変だったけど、今年は手下が沢山増えて楽できそうね」
高梨百合が上機嫌だ。
「……下級生を手下って言うものじゃないよ」
陽人が苦笑して答える。
「でも、選手権に出た効果は凄いですね」
卯月亜衣が届をまとめている。
「みんなに聞いてみたんですけれど、ほとんどのみんなはテレビで観たからだ、って答えていましたよ」
それはそうだ、と周りが頷く中で高梨が「ニシシ」と笑う。
「で、亜衣は誰が良かったですか、って一人一人に聞いていて、記録までしていたのよ」
陽人は思わず卯月を見た。横を見ると後田も視線を向けている。
記録をしていたとなると、そこには厳然たる序列が存在するはずだ。
それがどうなっているのかは、やはり気になる。
「気になるでしょ?」
「まあ、ならないといえば嘘になる。達樹と翔馬がワンツーかな?」
大会前からメディアにも出ていたし、そのうえで堂々の得点王になった瑞江が一番なのは間違いないだろう。
次は高校生離れしたフリーキックを2本決めてベスト4進出に大きく貢献した立神であろうか。
「外れです」
「じゃ、真治?」
卯月はメモを見せる。
「一位が瑞江さんで、二位が天宮さん。三位は鹿海さんですね」
「えっ、俺?」
「それはまあ、天宮君は目立っていたでしょ。オウンゴールしたり、失点止めて大怪我して退場したし、その後松葉杖つきながら叫んでいたし」
という高梨の言葉に「確かに」と後田が頷く。
「何で三位が優貴なんだ?」
「顔が良いって」
「そっちかい」
あまり顔の良し悪しを話したことはない。とびぬけて良い顔やまずい顔という認識を誰に対しても持っていないが、言われてみると鹿海の場合は背も高いし、すっきりしている。だから良く見えるのだろう。
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