1月6日 19:45

 高踏高校のチームバスが横浜のホテルに着いたのは午後7時近くになっていた。


 時間も時間であるから、その夜も泊まることになる。


 更にこの時間から食事をとることになり、会場に全員が集まる。


 全員とはいっても、陽人はいない。「取材されそうだから先に帰る」と電話で伝えて、そのまま帰ってしまっていた。


 食堂に入って、全員の目が中央のテーブルに注がれた。そこに何故か電話が置かれてある。


「これは何ですか?」


 真田が尋ねると、ホテルのスタッフが「参りましたよ」と愚痴りつつ話をする。


「天宮君の取材がしたいという電話が先程からホテルに連続してかかってきておりましてね。こちらも大変ですので、できれば対応をしていただきたく……」


 どうやら陽人が危惧していた通り、チームが戻ってくる前から、取材希望の電話がかかっていたらしい。


 ホテルとすれば、高踏高校のことであるから、そちらで何とかしてくれ、ということのようだ。



 実際、食事が始まると、ひっきりなしに電話がかかってくる。


 その度に真田が出る。


「あ~、ど~も~、お世話になります~。はい、はい、天宮ですか? 足の負傷があるので一足早く名古屋に戻りましたし、明日以降検査を受けますから、予定は難しいですね。はい、はい、よろしく~」


 軽いノリで答えて受話器を戻し、やれやれと両手を広げる。


「同じ試合をしていても、こちらには何の話もないというのに、監督が天宮だと分かった途端に電話の嵐というのはどういうことなんだろうね?」

「それは仕方ないですよ。先生、変に攻撃的ですし」


 後田が笑いながら応じて、周囲も笑う。


「そうかな? 不当な労働に反対しているだけなんだが」

「だったら取材だって面倒だって、ブツブツ文句を言うんじゃないですか?」


 これまた、周囲も大笑いだ。


 真田は渋い顔をしながら「そうかもしれない」と頷いて、一転話題を変える。


「しかし、天宮がケガをした時には、本当にツキのないことだと思ったけど、こういう結果になるとね」


 ケガをして良かったとはさすがに言えないが、それを口実にしばらく取材拒否ができるのだから不幸中の幸いとは言えるだろう。



 空気が少し重くなったところで、真田は「あっ」と何かを思い出したかのような声をあげた。


「そういえば天宮がこんなことになったから、しっかり話せていなかったかもしれないが、このメンバーの中から世代別代表の合宿に招待されるかもしれない者がいるらしい」

「世代別代表!?」

「そう。瑞江に、立神に、陸平に、稲城の四人だ」


 真田の発表に、一斉にどよめきがあがるが、ただ1人、稲城は目を丸くした。


「えっ、私も? 別の人と間違えてないですか?」

「希仁の運動能力を買ったんじゃないの?」


 後田が分析し、「そうだな」と多くの者が頷く。


「それもあるし、以前はボクシングをやっていただろう? だから、サッカーの方で囲い込みをしたいという意図もあるらしい」

「うーん、そういう形で呼ばれるのなら、できればお断りしたいのですが」

「断る!? いや、代表に行けるなんて機会、まずないから、行った方がいいって!」


 後田はもちろん、颯田や芦ケ原も説得するが。


「いえいえ、私にはまだまだやらなければいけないことが沢山あります。今日の試合にしても、私にもう少しできることがあれば結果は変わっていたかもしれませんし」


 と、深刻な顔で振り返りそうになったところで、真田が「分かった、分かった」と話を止める。


「あくまでそういう話がある、ということで確定じゃない。今すぐ結論を出さなければいけないわけではないから。以上!」


 そう、話を締めくくった。



 食事が終わると、後田が今後の予定について説明を始める。


「とりあえず今月末から新人戦が始まる」


 新人戦、すなわち三年生が抜けた新チームでの勝負だ。


「新人戦の優勝チームは、夏の総体予選で大きくシードされて県予選準決勝からの登場になる。つまり、無意味な試合を減らすという点では何とか勝ちたい」

「……そこでは俺達が本命だろうしね」


 瑞江の言葉に皆が頷く。


 全国で準決勝まで行ったチームが、一人の離脱者も出さずに挑むのだ。


 深戸学院や鳴峰館は主力の多くが抜けている。もちろん、新チームは練習を積んでいるだろうが、ここでは高踏が圧倒的大本命になるだろう。


「それが進む一方で、新年度に向けてのスケジュールも動く。と言っても、こちらは俺達にやることはない。2月頭に出願があって、月末に試験がある。合格者の中からサッカー部に入ってきたものを鍛えることになるが、実は今回の快進撃で事前相談などに来ている学生の情報がある。それを卯月さんがまとめてくれたので、今、発表する。ちなみに成績が足りないとか、試験に落ちて来ないとか、やっぱり別のところにする、となる可能性もゼロではない」

「おー! 新人か、ようやく11人で紅白戦ができる!」

「確かに……」


 苦笑しつつ、後田がリストを開いた。



主要新人紹介:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093074678271663

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