1月6日 15:27
「交代で入った2人はどういう選手なんですか?」
ピッチにいる陽人や後田は記憶やメモを頼るしかないが、スタンドの結菜達は他でもない北日本短大付属のコーチに聞くことができる。
「15番の小切間はテクニックだけならチーム一です。ただ、信じられないような難しいプレーをやってのける一方で、誰でもできる簡単なプレーをミスするんですよね」
「集中力が乱れるタイプですかね?」
「そうかもしれませんね。17番の七瀬は、20年ぶりにウチからプロに行けるかもしれないと期待している選手です。スピードと力のあるドリブルがありますね。とはいっても、どこまで力を発揮できるかどうか……」
前半、全くボールが確保できませんでしたからね。
夏木は自信なさげに答える。
後半は北日本短大付属のキックオフだが、早いプレスから鈴原がすぐにボールを奪った。
立神に繋いで、ドリブルで一歩中に切れ込み、陸平に下げる。
その陸平から縦に長いパスが出た。
「おぉっ!?」
会場がどよめいた。高踏が長めの縦パスを狙うのは珍しい。
しかも、そのパスは、分厚い北日本の最終ラインのディフェンダー2人の間、颯田がフリーで走ろうとしている位置にきっちりと落ちる。
「チャンスだ!」
トラップがきちんとできれば一気にキーパーと1対1だ。
しかし、その状況を颯田も意識しすぎたのだろう。
ボールを受け損ねて流してしまった。
「あ~」
流れてしまったボールを新条が取り、すぐに前に投げ込む。
再度スタンドからどよめきが上がる。
ボールを受けたのは入ったばかりの小切間。
芦ケ原のチェックを受けながらボールを受ける。攻め込む側は背中側だが、少しボールを動かして反転しながら前のスペースに向けて蹴り込む。
「おぉっ? あの体勢からロングパスを出した!」
北日本の右サイドに棚倉が開いていたが、左サイド側はこれまた入ったばかりの七瀬が走る。その七瀬の前にボールが落ちた。
この試合初めて、北日本が高踏最終ラインの裏を取った。
七瀬がストライドを伸ばして前線へと走る。
林崎が棚倉につられていたため、七瀬を追いかけるのは立神しかいない。
走力のある七瀬だが、立神も負けてはいない。
追いついた時点で立神は肘を入れて競り合おうとする。そのまま押し込んだ。
七瀬が倒れて、笛が鳴った。
高踏陣内半ばほどでのフリーキックに場面が変わる。
「いや~、面白いシーンだった」
藤沖の言葉に夏木が頷いている。
「本当です。陸平君、パスも出せるとは思っていましたが、予想以上ですね」
縦パスはないという油断があったにしても、ほぼピンポイントで通っていた。颯田が焦らなければ決定機となっていただろう。
「高踏が来年以降、もう1人ビジョンの広い中盤を得たら、陸平君の良さはもっと生きるのでしょうね」
陸平は攻撃能力も高いことが証明されたが、それがシュートに結び付かなかったことで反転カウンターを受けたのも事実だ。これでまた、陸平は守備のために攻撃面ではパスを刻むだけの役割に集中するだろう。
今はそうするしかないだろうが、今後、彼と役割分担ができる中盤が現れてくれば攻撃のバリエーションは更に広がる。
そうなれば、そうでなくても辛い対戦校にとって悪夢のような展開になるだろう。
「そこからの北日本の形も良かった。小切間のパスも凄い」
ボールを受けて、相手を背負いつつも一瞬で反転して前線にパスを送る。多少アバウトな狙いではあったのだろうが、大体でも送れるだけでもたいしたものだ。
難しいプレーをうまくやるという、事前の夏木評を裏切らないプレーだ。
「棚倉がボールを受けに北日本の右サイドに開くのに対して、反対側の左サイドは七瀬が裏を狙いに行く。攻め手を増やしてきたね。陸平が前志向になった点と重なって見事に行けそうになったけど、ただ、立神もクレバーだ」
立神は割合あっさりと倒してしまったが、もちろんもっとしっかり守ることはできただろう。
ただ、自分達がチャンスになりそうだというシーンから、相手のカウンターになってしまった。しかも陸平がポジションについていない状況である。
状況を全て把握できてはいない。
だから、変にボールを取ろうとして事態を悪化させるより、さっさとファウルにして止めてしまった方が良いと判断した。
「それで警告を受けない程度で止めたのだから憎らしい。後半はこういう目まぐるしいシーンが増えるかもしれないな」
「その前にこのセットプレーもありますよ」
結菜が指摘する通り、相手陣でのセットプレーも北日本にとってこの試合最初である。
ゴールまでの距離は遠いが、ことセットプレーに関して言えば長身の選手が多い北日本の方が有利に見える。
高踏で180センチを超える選手はいない。高さがある武根も178センチだ。GKも今日は須貝である。
一方の北日本短大付属は190センチの斎藤、187センチの平、183センチの棚倉、180センチの大瀬戸。長身選手が4人入ってくる。
キッカーの位置には10番の重谷と15番の小切間がつく。
時計は後半3分から4分になろうとしていた。
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