1月6日 14:10

 準決勝第一試合は、夏の総体王者の洛東平安と、サッカーどころ静岡の浜松学園との対戦だ。


 大会前から弘陽学館と並ぶ優勝候補筆頭にあげられていた洛東平安の絶対的な長所は守備陣の安定だ。


 ゴールキーパーの能井田のいだ


 両サイドバックの佐原さわら古仲こなか


 センターバックの不破ふわ原木ばらき


 この五人は全員世代別代表の招集経験があり、事実ここまで無失点で来ている。


 点を取られないという安心感があるので、試合運びも落ち着いている。



 一方の浜松学園は走力のあるツートップのカウンターが持ち味だが。



「やはり洛東平安の方が一枚半くらい上ですね」


 前半終了時、夏木の感想に異を唱える者はいない。


 スコアは0-0だ。シュート本数は洛東平安が5本で浜松学園が3本だが、それ以上に洛東が浜松学園のやりたいことをやらせていないという感がある。


「不破と原木はフィードも正確だし、安全なところからもう少しというボールが出ている。浜松学園はカウンターに持ち込むシーンが皆無で、ちょっと点が取れそうな気配がないね」


 藤沖も夏木に続く。


 洛東平安は決定機が二回あり、それを外しているがチームに動揺が全く見られない。「どうせ点を取られないんだ。最終的に1点決めれば良い」くらいの余裕が漂っている。


「そういえば、北日本短大付属も1失点ですよね……」


 結菜がここまでの戦績を思い出して夏木に尋ねる。


「そうですね。PKを与えて失点しています」

「PKですか」


 ということは、オープンな展開では点を取られていないということだ。


 一方の高踏はここまで9失点。展開ゆえに取られた点もあるが、かなりの大盤振る舞いだ。


 もっとも、当の夏木はそう評価してはいないようだ。


「正直なところ、高踏さんのパス回しにはある程度対抗できるとは思っています。ただ、個々でファウルの可能性はありますからね。瑞江君を止められるかというと自信ないし、しかも立神君という強力なキッカーがいますから、楽観視はまるでできませんよ」


 確かにそうだ。


 弘陽学館戦、出ていたのがサブ組だったというエクスキューズがあるが、オープンな展開で崩したシーンは全くなかった。しかし、それでもファウルを貰ってセットプレーからゴールを奪うことができた。


「だから洛東平安は高踏が一番嫌でしょうね。ウチにも浜松学園にもスーパークラスのプレースキッカーはいませんから」


 守備陣の盤石ぶりと比較すると、洛東平安は攻撃陣が薄い。弱いわけではないが、先に失点をして守りを固められた場合に打開できる力はそれほどない。


 強力なセットプレーは確かに脅威だろう。



 後半が始まった。


 引き続き洛東平安が主導権を握る。


 主導権とはいっても、ボール支配自体は浜松学園の方が長い。ただ、「攻めさせてしっかり攻め返せば良い。最終的には1点は取れる」という雰囲気があるように感じられる。


 一方、相手のペースになることを恐れているのか、浜松学園は強引に突破を図ったり、スペースのないパスを狙ったりするなどちぐはぐなプレーが増えてくる。


「……相手を警戒するあまり、ますます相手のペースになっているね」

「いわゆる術中にはまっているという状態ですね」



 後半15分、遂に拮抗が破れる。


 相手の攻撃を止めた洛東平安は最終ラインから右サイドを狙った。


 これを浜松学園の左サイドバックが無理にインターセプトを狙い空振り、そのためスペースが大きく空いてしまい、一気に攻めを許すことになった。


 センターバックが右サイドのケアに来たところを中に折り返し、中央から飛び出してきたMF座間ざまが決めて大きな先制点をあげる。



 失点したことで、浜松学園は更に前に出るしかなくなった。


 これもまた洛東平安からすると思い通りの展開である。しっかりと止め続けて再三のカウンターを狙う。FWが決め切れないので追加点こそ入らないが、守備に絶対の自信をもつ洛東平安は慌てず冷静に対処しつづけている。


 後半25分以降、浜松学園はディフェンダーを1人削って前線を増やした。


 しかし、打開策としては不十分なうえに、この空いたスペースを使われることになる。



「あ~」


 後半35分、スタンドから溜息が漏れる。


 CBの不破がボールをカットすると、薄くなった浜松学園の背後のスペースへ放り込む。これをCFの宍田ししだが競り合い、こぼれたボールを拾ったサイドハーフの杉村が突破し、そのままシュートを決めた。


 浜松学園がやりたかったはずの見事なカウンターで追加点。


 これで勝負ありだ。



 第一試合は2-0で、洛東平安が勝利。


 優勝候補の名にふさわしい盤石の勝利で、決勝へと駒を進めた。


「ということは、初戦から5試合無失点か。凄いな……」


 高校サッカーのシード枠は昨年の準決勝進出地域から決められる。優勝候補筆頭ではあるが洛東平安は昨年ベスト8敗退なのでノーシードからの勝ち上がりである。


「過密日程で5試合無失点というのは凄いですね。安心できる要素があるというのは、やはり強いです」


 夏木は言葉のうえでは褒めているが、口調を聞く限り脅威と感じている節はない。社交辞令という風にも聞こえる。



 会場では洛東平安のインタビューが行われ、その間に短い時間ながらグラウンド整備が行われている。


 ほぼ同時進行で第二試合のスターティングメンバーも発表される。


 第二試合のキックオフまで、あと10分だ。


第二試合スタメン:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093073776289399

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