1月4日 19:36

 インタビューが終わると、後の引率を後田と校長に任せて医務室へと直行した。


 校長の篠田は、引率者兼管理者として控室近くで待機していた。可能であれば真田の代理を任せたのであるが、今大会の登録人員には入れていなかったため、外での待機ということになったのである。


 そのため、ついてくるのは後田と。


「大丈夫?」


 スタンドからかけつけてきた妹の結菜の2人となる。



 主催者の車に乗り、病院へと向かう間、負傷の話はほとんどない。


 診断前にあれこれ言っても仕方ないというのもある。


 話題となるのは次の試合だ。


「次の試合は、本来のメンバーで行くとして、そちらも勝ったら決勝はどうする?」


 後田が難しい顔をして尋ねてきた。


 決勝があるなら6試合目、偶数の試合は控え組を出してきていた。


 負けるだろう、今度こそ負けると思って二試合、勝ってしまった。


 最後、決勝戦まで出すのかどうか。


「……それは準決勝が終わってからする話だ。今、しても仕方ない」

「まあ、確かに」


 結菜も頷いた。


「ここまで来ると、怪我人も出るし、コンディションもそれぞれ崩れてくるかもしれないしね。これまではこれまでで、残りの試合はコンディションが良い選手で行くのが良いかも」

「それもそうだな。それより……」


 陽人は頭をかいた。


「準決勝まで考えていなかったが、相手は北日本なんだな」

「そうよねぇ、私もインタビュー聞いていて驚いたわ」

「県予選の決勝戦は見たけど、結構守備的に戦っていたイメージだな。ここまでどうなんだろう?」


 と、妹と後田に調査を任せる。


 座っているとはいえ、両手の近くには松葉づえがある。とても調査する余裕はない。



 結菜が手短に調べている。


「スコアしか分からないけど、1回戦から登場で初戦から2-0、2-1、0-0のPK戦、1-0、1-0の勝ち上がりね。やっぱり守備は強いみたい」

「8月のメンバー、覚えているか?」

「うーん、名前までは。一応、見てみるけど」


 各試合のメンバーを調べているが、さすがに覚えていないようで頭を傾げている。


「結菜ちゃんはいいよ。受験に使う頭を余計なことに使わない方が良いし」


 と後田が引き継いで調べ始める。


「ハットトリックしていたのが下橋って人だったよね? 一応、一試合出ている」

「あの練習試合にいたのは二軍だったし、下橋さんはその中でも控えだったから、あの時点では序列は相当下っぽいよね」

「他のメンバーは分からないなぁ。失礼だけど、二軍の人を覚えても仕方ないって感じもあったし」


 後田が申し訳なさそうな顔をしているが、それは陽人も変わりがない。


 眼前でハットトリックをされたので下橋拓斗の名前だけは憶えていたが、結菜の言うように二軍でスタメンじゃなかったとなると、四番手か五番手という扱いになるのだろう。




 車はさいたま市内の病院に着き、早速レントゲン、MRIといった各種の検査を受けることになる。


「ちょっと座ってみてくれる?」


 という、医師の指示に応じて座ったり、立ったりも行う。


 二時間ほどがあっという間に過ぎる。


「靭帯は大丈夫そうだね、捻挫だろう」


 意外とあっさりと診断が出た。


「地元に戻ったら、もう一度改めて診てもらっても良いとは思うが、それほど長くかかることはないと思うよ」

「ということは、明後日の準決勝も?」


 冗談めいて聞いてみると、途端に不愉快そうな視線を向けられた。


「それは無理だね」

「ですよね」

「仮に決勝に行ったとしても決勝も無理だね。何をやっても無理だ。諦められないのなら、いくらでも他の医師に聞いてみると良い」

「いいえ、そこまでして出たいとも思いませんが……」


 そもそも自分が出ない方がチームにとって良い状況ということは百も承知であるから、特に思うところもない。


 ただ、わざわざ念を押したり、「納得できないなら他の医師にも聞いてみるといい」と言うところを見ると、納得していない者も診てきているのだろう。


(ま、確かに三年で、しかも主力級になると無理して出たいと思うだろうな)


 幸か不幸か陽人はどちらもあてはまらない。



「先生、仮に三年で、主力だったら、もう少し軽かったら出すように言うんですか?」


 思ったことを質問してみた。


 あからさまに「変なことを聞く奴だ」という顔を向けられるが、それでも医師はしばらく考える。


「まあ、最後の大会で何とかなりそうなら『後は自分次第』と声をかけることもあるかもしれないね」

「なるほど」

「あくまで仮定の話だよ。高校では最後かもしれないが、大学もあるし、プロも目指す選手も多くいるからね」

「ちなみにですが、俺もベンチで声を出したりするだけなら大丈夫ですよね?」

「……もちろん、それくらいならね」


 と言って、医師は「あれっ?」と声をあげた。


「何となく違和感があったが、君のところは監督さんも部長も来てないんだね? 普通は誰か教諭が来るはずだが」


 確かに、付き添いは後田であり、結菜である。大人が1人もいない。


「いや、まあ、先生は体調悪くて宿舎を出るのもNGですので」


 陽人はそう誤魔化した。



 監督はどうやら自分らしい、などということは到底言えない。


 部長兼顧問にしてついでに監督役をやっている者は主催者と喧嘩別れしたので箱根にいる、などはもっと言えないことであった。

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