12月31日 16:26

 質疑応答が終わり、スタンドに戻る頃には15時を過ぎていた。


「第二試合もハーフタイムだろうな」


 瑞江に話しながら、スタンドへと入る。


 おそらく、結菜と藤沖達がどこかにいて、他の選手も合流しているはずだ。


 陽人はスタンドに入ると、何気なくスコアボードを見た。


「5-4か。えっ、5-4?」


 二度見するが、5-4。新潟の越後高校が大阪の海老塚高校を1点リードしている。


 一瞬、試合が終わったのかと思ったが、ハーフタイムとしっかり出ている。


「前半だけでこのスコアは凄いな」


 瑞江も驚き半分呆れ半分という様子だ。


 片方が一方的に大量点というのなら分かるが、どちらも大量点というのは中々見ない展開だ。



 結菜達を探し当て、合流してから様子を尋ねる。


「前半、どんな感じだったんだ?」

「一応、この試合も録画しているから、後で見てほしいんだけど」


 と言いつつも内容を話し出す。


 とにかく、海老塚は高いラインを敷いて前から圧力をかけるらしい。


「うちと同じやり方なわけか」

「そこだけは、ね。実際はウチの十倍イケイケな感じで、後ろを考えていない感じがあるのよ」

「まさか……」


 高いラインを敷くと、確かに後ろのことを気にしていないように見える。


 しかし、実際にはそういうことはない。その分プレスをかけるし、ゴールキーパーが高い位置にいるのもミスキックを速やかに処理するためだ。


 全ては繋がっている。守備を軽視しているように見えても、守備に関する理論が繋がっているはずだ。


「もうちょっと分かりやすく言うと、陸平さんのところにメッシがいる感じ」

「……本当かいな」


 喩えとしては分かりやすいし、4点取って5点取られている理由は理解できた。


 ネットにはスタッツもある。シュート数は越後が15本、海老塚が17本。


 この数字の原因が海老塚高校にあるとすれば、なるほど、守る意識は薄そうだ。



 ハーフタイムが終わり、選手達が出て来た。


 紫色のユニフォームの海老塚は長身の選手が多い。


「セットプレーが強そうだな……」

「うん、そう思うけど、ただ、前半は全然なかったわ」

「とにかくお手並み拝見だな」

「いや、本当にすごいよ」


 陽人は慎重だが、既に試合を観ていた他のメンバーも「滅茶苦茶だ」という様子だ。



 果たして、後半が始まると陽人もその意見に同調するしかなくなる。


「本当にガムシャラに前に行くんだな……」


 圧力はなるほど自分達と同じようなものだ。


 しかし、陸平がいないというのは本当のようで、かいくぐられるとすぐに裏を取られる。


 後半開始すぐ、越後に6点目が入った。


 しかし、越後がリードを守ってカウンターとばかりに後ろの方に構えると海老塚の高さが威力を発揮する。


「あの7番は高いな」


 クロスボールに対して、海老塚7番の半田がとてつもなく高い。越後のセンターバックの頭一つ上からヘディングをして1点差へと追いすがる。


 半田の高さを考えると、むしろ前からプレスをかけた方が良さそうだ。高踏が西海大伯耆との終盤、フアンをゴールから遠ざけるためになるべく前に出て行ったのと同じように。



 その結果として、越後に7点目が入った。後半18分で7-5。サッカーでは中々お目にかかれないスコアである。


「どっちかが12点取るとかならありえるだろうけど、これだけお互い点を取りあう試合ってそうはないよなぁ……」



 後半20分を過ぎた頃から、海老塚が一気に波状攻撃をかけはじめた。


 半田の落としたボールをトップ下の河西が決めて1点差、更に河西がミドルシュートを決めて、遂に7-7の同点に追いつく。



「あぁ、越後はバテてしまったんだ……」


 派手な打ち合いで上下動が多すぎる試合である。


 点が取れているので無意識に走り回れていたが、疲労は着々と溜まっていたのだろう。それがある時点で一気に来た。


 肉を切らせて骨を断つ。


 そんな言葉が思い浮かぶ。


「海老塚はスタミナには自信があるから、とにかく全員が走り回るのかな……」

「今、気づいたけど、海老塚は3-5-2だな。サイドは一人で見ているんだ」


 とてつもない上下動を繰り返す試合だが、海老塚のサイドハーフ近藤と篠崎はけろっとした様子で走っている。4-3-3気味の越後はサイドバックとウイングがいるが、両方とも腰や膝に手をあてたり、天を仰いでボールに向かうシーンが散見される。


「いつもこんな試合で勝っているのかな?」

「私もそう思って予選を見たけれど、8強が8-5、4強が9-6、決勝は10-5だって」

「すげえ……。ずっとこの戦い方しているんだ」



 後半31分、遂に海老塚が8点目を奪い後半になって初めてリードを奪った。


 半田とツートップを組む14番の宮本も高い。


「下がって待ったらツートップが高い。前から出ると徹底的に走ることになってスタミナ切れを起こす。嫌な二段構えだね」

「これで優勝できるかというと、ちょっと微妙な気がするけれど、試合としては面白い」


 更に38分に河西が9点目を奪った。


「野球のルーズベルトゲームって8-7だったよな。サッカーでそれを超えるとは」



 第二試合はそのまま9-7で終わり、高踏の三回戦の相手は海老塚高校と決まった。

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