12月29日 13:15
後半が開始した。
「おぉっ?」
スタンドで藤沖をはじめ、数人が声をあげた。
四国中央が開始直後にボールを奪った。
と同時に、前線の2人とサイドアタッカー2人が猛烈に上がりはじめたのだ。そこを狙ったボールは、一度目はGK須貝に処理されたものの、二度目は。
「通った!」
10番をつける左サイドの
14番の里山明夫がダイレクトに合わせたシュートがゴール左隅に突き刺さり、後半3分に四国中央が1点を返した。
「出てきましたね……。DFを下げているから、前に人数かけて力づくで開けようってつもりなんでしょうね」
結菜の言葉に、藤沖が頷く。
「そうだね。3点ビハインドだからこのくらい思い切ったことをやらないと追いつく見込みはない。高踏は後ろを削ったから、前に出すと陸平もカバーしきれないし。ただ」
リスクもあるよ、と付け加えた途端に、前線の稲城が激しくチャージをかけてボールを奪う。
「こうなると……」
前に走った4人が慌てて戻るがその前方では9対7の状況である。
稲城が園口に下げて、園口から鈴原、一気に瑞江にスルーパスが通った。一人をかわして、GKの届かない位置に冷静に蹴り込む。
「うわぁ、全国デビューでポーカーまで来たかぁ」
瑞江はこの試合4ゴール目。いわゆるポーカー(ポーケル)である。
もちろん、県予選二回戦の鉢花戦では7点取っている。4ゴール自体が決して珍しいわけではないが、全国大会初戦で、となると違う。
『まさに、ゴールの申し子、瑞江達樹!』
実況のボルテージも上がりまくっているようだった。
スタンドの中にそこまで叫ぶほど者はいないが、後半5分の間に両チームが点を取りあう展開には大盛り上がりである。
「行け、行け!」
「どっちも頑張れ!」
高踏ベンチで陽人は座ったまま戦況を見つめていた。
「どうする?」
後田が尋ねてくる。
「……予想外にハイテンポなサッカーになってしまってきたな」
眼前をボールが通る。
サイドライン際に上がった牟佐を狙ったボールが大きくて、ラインを割ってしまった。
道明寺がボールを拾い、立神に「いつでも替わるぞ!」と叫びながら渡す。
その後、3分ほど展開を追うが、流れは変わらない。
「……受けて立つしかないだろう」
支配率もチャンスの数も互角のまま推移している。
あとは体力・スタミナ勝負となってくるだろう。
「相手のチャンスも多くてひやひやするなぁ……」
「それは分かるが、こちらは数的不利があるからな……」
互角に打ち合っている状況の評価は難しい。
とはいえ3点のアドバンテージがある以上、互角のまま推移していくのは悪い展開ではない。
一番怖いのは下手に弄って、精神的に受けに回ってしまうことであり、そこから破綻を来すことである。
「希仁が言っていたけれど、ボクシングの試合で苦しい時、相手も同じくらいに厳しいんだってさ。だから、ここは我慢するしかない。もちろん、交代の準備はしておかないといけないけど」
陽人は戸狩、久村、曽根本にアップの準備をするよう指示を出し、再びピッチに集中した。
どよめきと溜息。
右に飛んだ須貝が伸ばそうとした手を引っ込めた。シュートが右に流れて枠を外れる。
「けがの功名というわけではないけど、GKが須貝になったおかげで変な形で決められる心配はなくなったね」
藤沖の言う通り、須貝は最初のシュートこそ止められなかったものの、そこから15分までに打たれた5本のシュートは問題なく処理している。
「鹿海さんが退場したシーンも、GKが須貝さんなら退場なんてことにはならなかったかもしれませんね」
より前に出て、スピードのある鹿海だから中途半端な形で追いついて、相手を倒してしまった。
仮にGKが須貝だったなら間に合わなくてステイしただろう。その結果として1点取られたかもしれないが、退場はならないからもっと落ち着いた形で前半をプレーできたかもしれない。
「ただ、まあ、これも怪我の功名かもしれないけど、須貝が一回戦から出て試合感覚を持つことができたのは良かったんじゃないかな」
大会屈指のFW大野と対戦するに際して、初出場で舞い上がっていては話にならない。前半の少しと後半丸々プレーしたことで、その心配はなくなるだろう。
「とはいえ、これだけ派手に打ち合っていると選手の疲労は相当なものだろうけれど……」
後半15分、スコアは4-1のままだがお互いのシュートは後半だけで6本ずつとなっている。
後半だけを見ると、非常に白熱した好試合となっていた。
今もまた、四国中央の牟佐がシュートを打つが、これも枠を外れる。
そこで高踏が選手交代に出た。
ライン際には16番の戸狩と22番の久村がいる。
替わって出る選手は、17番の芦ケ原、20番の鈴原だ。
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