12月29日 12:45
「誰を下げる?」
後田が尋ねてきた。
GKが退場となった以上、代わりのGKを入れるしかない。
控えGKの須貝を投入するのはもちろんとして、誰を下げるのか。
「……難しいな」
定石としては前線の選手である。
仮にFKを決められたとしても2点リードしているから、前線の選手を外して、後ろをしっかり固めるべきである。
「だけど、受けに回った結果招いたものだからな……」
このFKと退場劇は3点リードして受けに回ったことによるものだ。
となると、前を下げると高踏は更に受ける立場となってしまい、四国中央はより嵩にかかって攻めてくる可能性がある。
「駆を下げて、康太を入れる」
後田は目を丸くした。
「えっ、DFを下げるのか?」
「ウチのディフェンスは前から仕掛けるものだ。後ろを残してじっくり待ったら、今の退場劇を繰り返すだけだろ」
「……まあ、それはそうだが……そうなると大地の1バックか?」
高踏は4バックだが、園口と立神はほとんど中盤というくらい前まで出て行く。
武根が交代させられるとなると、DFとしての役割をこなすのは林崎一人となる。
「後半に備えて英司、徹平、護もアップさせて、前半はラストまでここまでのプレーを続けるしかない」
「そうだな……」
後田も頷いて、真田を経由して交代が告げられる。
ボードに「15」が出て、スタンドがどよめいた。誰もが考えたのは前線3枚の誰か。とはいえ、ハットトリックの瑞江は外せないので稲城か、颯田を想定しただろう。
3-0でリードしていて、何故前線を残す必要があるのか。その疑問自体は当然だ。
ベンチに戻ってきた鹿海に対して、陽人は右手をあげた。ハイタッチの構えである。
鹿海は一瞬「えっ」という表情になった。タッチには応じずに「すまん……」と頭を下げた。
「今のは優貴のミスじゃないよ。気にするな」
もちろん退場は痛い。
点差を考えれば、無理なプレーをせず1点あげても良かったのでは、とも思う。
とはいえ、鹿海は根本的に何かを間違えたわけではない。いつもの積極的なプレーを行おうとしていただけだ。それが相手に先に取られて反則となってしまったのは、前の方にいる若干名が本来やるべきことをやらずに気を抜いたからだ。
それで鹿海を責めるのは筋違いである。
「おまえのせいじゃないから。あとは康太を信じよう」
そう言ったものの、頭は痛い。
レッドカードということは次の試合も出場停止である。
本来であれば、控えチームの中ではFWとして起用される予定の鹿海が2回戦に出ることができない。
「いや、その前にまずはこの試合だな」
目の前の局面に集中する。
ゴール斜め左、エリアのすぐ外からのフリーキック。
四国中央の10番田塚鉄人がボールを置いた。
右足からの正確なキックの持ち味があると紹介文にあったが、映像を見る限り、ひたすらシュートを打つ思い切りの良さが持ち味のように見えた。
だから、ここはまず間違いなく直接狙ってくるだろう。
ベンチから出来ることは何もない。須貝とディフェンダーを信用するのみだ。
田塚が助走からシュートを放った。ファーサイドを狙ったやや巻くようなシュートに須貝も反応している。威力よりも曲がりが大きく、そのまま胸元に収まった。
「ふ~」
高踏ベンチは大きく息をついた。
「なあ、陽人。今のシーンで、直接狙わずに誰かに合わせる選択をされたら、駆を下げた俺達は結構やばかったんじゃないか?」
後田の言葉に陽人は「間違いない」と頷いた。
守備のセットプレー時に一番高さで頼りになるのは武根である。次に長身の鹿海だ。
その2人が両方いない。相手が高さを武器にしてくれば苦しむことは火を見るより明らかだ。
「だけど、あれもこれもというわけにはいかないだろ。そもそも11人でも足りないんだぞ。10人になったらもっと足りなくなるのは当たり前だ。それなのにあれやこれや足りない部分を心配し出したらキリがない」
高さで負ける分については諦めるしかない。相手がそれをうまく生かせばそれだけ得点にはなるが、それは相手を褒めるしかない。
その代わりに、他の部分ではなるべく穴を作らないようにし、ラインも下げることなく追加点を狙いに行く。
幸いにして3点のアドバンテージがある。
ここからの時間で3点取られたとしても、1点取れば勝てる。
ならば、出来ることをしっかりやっていく方が良いだろう。
前半35分、スコアは3-0。
前半終了時も同じスコアだった。
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