11月20日 15:11
同時刻、高踏高校のクラブハウスでも部員一同がモニターで様子を見ていた。
もっとも、陽人同様、相手が分かったから具体的に何かが変わるわけでもない。
「陽人はどうするんだろうな?」
疑問を呈したのは颯田である。
詳細は分からないものの、一回戦の四国中央と、二回戦で当たるだろう西海大伯耆を比較すれば後者の方が強いだろう、という印象はある。
県予選でも、鉢花相手に全力で試合をするために竜山院との試合にサブチームをぶつけて、二回戦でレギュラーメンバーを出すということをした陽人である。全国大会で同じことをするかもしれない。
「ただ、全国だから一つは勝ちたいだろうし、オーソドックスに行くんじゃないかな……」
陸平が返事をした。
全国大会で初めて高踏を見る人間には、どちらがレギュラーでどちらがサブかは分からないだろうが、県内の人間には分かる。「サブで勝てると思ったので、サブで挑んで初戦敗退しました」ではさすがに印象が悪いだろう。
「そうなると、俺達が大野さんとやるの? 無理ゲー過ぎる……」
サブ組でセンターバックを務めることになるだろう石狩がこれみよがしに身を震わせる。
「高校生で大野さんと相対できるCBはいないから、気にしなくていいんじゃない?」
「それは言えている。むしろ、徹平はできると思っていたのか? 的な」
「敢えて言うなら、せめて3点くらいで抑えたい、みたいな感じじゃないか?」
口々に言い合っているうちに、次々と抽選が進んでいく。
一方で、現地放送局の陽人には、次の重荷が待っていた。
応援リーダーのJリーガー・
『一年ばかりで出て来るなんてすごいね。僕も経験者だから分かるけど、あの舞台に経験者無しで来られるなんてとんでもないよ』
「ありがとうございます」
板橋の激励に素直に頭を下げる。
一応、登録メンバーに二年がいます、と答えることも頭に浮かんだが、一度もベンチ入りしていないのも事実である。余計なことは言わない方がいいだろう。
『マネージャーの佐久間サラです。よろしくお願いします』
「よろしくお願いします」
『高踏高校は一年生ばかりなのに、毎試合5点くらい取っていて凄く攻撃的なサッカーをしているんですね』
攻撃的なサッカー。
特にそういうことを考えたことはない。
野球やアメリカンフットボールのように攻撃と防御が別々にあるわけではない。攻撃と防御は表裏一体のようなものである。高い位置でボールを奪えれば良い守備であると同時に良い攻撃のチャンスでもあるし、その逆もしかりだ。
「いえ、偶々だと思います」
ただ、全体の問題だと思います、というような返事は大人げないだろう。
それに全国で予選ほどうまく点が取れるとも思わない。
謙遜しておくことにした。
佐久間は「そうなんですね」と答えたが、その後の反応に窮しているようだった。
もう少し、何かしら言うべきだったかとも思ったが。
(変な事を言って、いらない注目を浴びるのも困るし……)
真田が何か言ってくれることを期待したが、こちらも硬いようで何も言わない。
『頑張ってください』
結局、続かなくなったようで、話自体を打ち切られてしまった。
「終わりでーす」
テレビ局の人間に終了を宣言され、2人は重い溜息をついた。
「普通に話をするだけでも滅茶苦茶疲れる。延々と話ができる人達は凄いなあ」
真田が全く関係ないところに感心しながら、外を出る間、県サッカー関係者が資料を用意している。
「これが四国中央のデータです」
「あ、ありがとうございます」
データそのものなら、結菜や辻に頼めばもっと詳細なものが揃うだろうが、そうした情報は知らないはずだ。
今後も取材などで相手の印象を聞かれることになるだろうから、ひとまずはこれを元に対応してくれということだろう。
パッと開いてみたが、県予選の勝ち上がりスコアと登録メンバーが書かれているだけだ。
(何の参考にもならん……)
名前、生年月日、身長と体重、中学や中学時代に所属していたチームが書かれているだけでここから何を読み取ることもできない。
(深戸学院の佐藤さんは何て答えているんだろうか……)
気になったので、携帯の動画サイトで過去の動画がないか探してみる。
一年前のものがあった。
この時は初戦の相手は福岡のチームだったようだが。
『相手は激戦区・福岡を勝ち上がってきているチームで非常に強いです。チャレンジャー精神でぶつかっていきたいと思います』
「……」
経験のある佐藤でもこの程度のものらしい。
ならば、自分もかなり雑でも構わないのだろう。
(高踏は参加48チームの中で一番弱いチームです。チャレンジャー精神で向かっていきたいと思います。こんなもので良いか……)
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