11月20日 14:39
11月20日。
この日、組み合わせ抽選が行われる。
陽人は、真田と校長とともに名古屋にある放送局のブースを訪れていた。
抽選会というと、参加校が一同に会して行われるというイメージがあったが、現在はリモートでなされている。だから東京まで行く必要はなく、現地の放送局まで行けば済む。
用意されたテーブルに座り、用意された水に口をつける。
隣に真田が座り、これまた緊張した様子だ。幸いなのは、後ろに県サッカー関係者が2人いることである。色々な資料をもっているが、おそらく対戦可能性のある西日本のチームのデータだろう。
「天宮君」
まだ時間があるので、のんびり水を飲んでいると、テレビ局の人に呼びかけられる。
「何ですか?」
「抽選後に、簡単な質疑応答があるけれど、その後更に応援リーダーとマネージャーからインタビューがあるから、準備しておいてね」
「リーダー?」
マネージャー? 一瞬、何のことか分からなかったが、少し考えて元高校サッカー出場者のプロ選手が応援リーダーに、女子高校生がマネージャーになっていることを思い出す。
「全校にインタビューしているんですか?」
「全校かどうかは分からないけど、高踏は普通の県立だし、しかも、出場していたのは全員一年生。インパクトがあるからじゃない?」
「そういうものですか……」
時間が来て、サッカー協会のお偉方など、陽人もテレビで観たことのある人物が登場し、話をしている。
その後、抽選が始まった。
まずは昨年度4強まで残った地域から出た高校がシード枠に入っていく。
「天宮、緊張するか?」
真田が声をかけてきた。
「しないですよ」
「そうか? 俺はこういうの、微妙に緊張するな」
「いや、抽選といっても選んで押すだけですからね。ある意味、オンラインゲームのガチャみたいなものじゃないですか」
ただし、オンラインゲームのガチャではハイランクのものを引きたいところであるが、ここではハイランクの相手は引きたくないし、できれば2回戦に連なるところを引きたいという事情もある。
そうこうしているうちに順番が回ってきた。
『続きまして、愛知県代表、高踏高校』
「はい」
陽人の前に出て来たモニターの中から、一つ選んで送信する。
『高踏高校。31番』
ということは、トーナメント表を見る。
一回戦からの登場、相手は愛媛の四国中央高校だ。
抽選は引き続き進行するが、地元放送などを中心にインタビューへと入る。
『初戦の相手は愛媛の四国中央高校ですが、印象は?』
「正直、自分達のことで手一杯で、四国中央さんも含めて他の出場校のことはほとんど知りませんでした」
実際に本音である。
出場校で、多少なりとも情報があるのは練習試合をした北日本短大付属くらいだ。
『勝てば二回戦で大野君と対戦の可能性もあります』
「……大野君?」
全く情報がない。一体誰のことだろう?
「西海大伯耆の大野弘人だよ」
後ろにいた県サッカー関係者が小声で教えてくれた。
「あっ……」
もちろん、オリンピック代表FWで、国内組とはいえA代表にも呼ばれた大野弘人が西海大伯耆にいるということは見た記憶がある。
しかし、そもそも二回戦のブロックに何が入っているかも全く見ていない。
「すみません、目の前の試合のことだけ考えて、次の試合を考える余裕は全くありません。今は四国中央のことだけ考えたいと思っています」
『なるほど。チームとしての目標も初戦突破ですか?』
「はい。ウチは選手層の薄いチームですし、とにかく一つでも勝てることを目指してやっていくだけです」
答えながら、陽人は漠然と考えた。
よりにもよって二回戦は、代表選手がいるところか、と。
その後、10分ほど、今度は真田が質疑応答している様子を見ながら、近くのゾーンの推移を見る。
「これは中々厳しいグループに入ったなぁ」
県サッカー関係者が嘆きの声をあげる。
と言っても、一回戦すら勝てるかどうか分からない。
二回戦以降を考える余裕はないが、周囲を見た。
シードされている中に千葉の弘陽学館がいる。仮にベスト8まで進めば対戦することになる。
ここは去年のベスト4であり、今年も優勝候補だし、まず相手にならないだろう。
その一つ下は、分からない。
「弘陽学館と西海大伯耆以外だとどこが強いんですかね?」
「三回戦まで行けば、大阪の海老塚だ。ここも攻撃力が強く評判が高い」
「そうなんですね。四国中央はどうです?」
「四国中央は県立だから、チャンスは十分あるんじゃないかな」
県立だから。
見込があるという意味合いだが、何となく自分達も斬って捨てられたような感覚になった。
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さすがに全国大会になると都道府県出さないのはかなり苦しいので、当初設定の都道府県で表記していくことにしました(^^;)
あと、抽選会を実際に見たことはないので、実際に行われているものとはちょっとかけ離れているかもしれません。ご容赦を。
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