10月22日 16:39
人員は固まったので、改めて戦術面のスケジュールを考えることになる。
引き続き、後田を相手に話を詰める。
「対戦相手が分かるのは11月だが、確実なのは初戦の相手だけだ。そこまでの一か月をどう過ごすかだけど、これはもう今まで通りでやってくしかない。つまり、より速くプレーできるようにする、ということだ」
速くプレーできるのなら、遅くプレーすることは可能である。
しかし、遅くプレーしていて、速くプレーするのは難しい。
「特にサブ組は全国に出て来るチームとの間に力量があるのは仕方がない。だから、技術の差、個人の強さの差で負けるのは仕方ないにしても、スピードやリズムでついていけないということは避けたい」
「となると、今までの練習のスピードアップ?」
「それだけだと、全国レベルのスピードや強さをもつ相手を経験できないだろうから、紅白戦に一人ずつ他クラブから応援でも借りられないかと考えている。陸上部の短距離走の人に来てもらって、仮想下田さんタイプのウインガー対策をしてみたり、ラグビー部の人に参加してもらって当たりを強い経験したりするような感じだ。ま、他のクラブが協力してくれることが条件になるが」
ただし、ラグビー部はともかく他は難しいかもしれない。
サッカー部とラグビー部が大きなグラウンドを有していて、サッカー部はクラブハウスまで図抜けて立派ということは他クラブの人間も知っている。
全国大会に出た、という形で納得はさせられるだろうが、嫉妬感情を抱いているものはいるかもしれない。
後田は少し考えて、ポンと手を叩いた。
「いっそ、下田さんに来てもらうのは無理か?」
深戸学院に頼んで、下田や新木、安井に練習に参加してもらう。
「あるいは深戸学院と練習試合をするとか」
「なるほど。その手もあるか……」
結菜の話によると、決勝戦の試合終了直前まで深戸学院監督の佐藤と観戦していたらしい。陽人も全く面識がないわけではない。
「藤沖監督とか、谷端と宍原に言って頼んでみたらいいんじゃないか。断られたら、それはそれで仕方ないし」
後田の提案はもっともである。
「よし、藤沖さんに……というか、どっちにしても窓口が谷端になるんだよなぁ」
谷端は藤沖の甥でもあり、深戸学院の登録メンバーでもあったから、結局谷端頼みということになる。
陽人は携帯を取り出し、谷端に電話をかける。昨日決勝戦後に祝福メッセージも届いていたから、電話をする口実はある。
「あ、どうも。天宮だけど、メッセージありがとう」
『……どういたしまして』
「難しいかもしれないけど、ちょっと頼みたいことがあるんだ。全国大会に向けて練習したいんだけど、ウチの環境ではどうしても限界があるからさ」
『安井さんや下田さんに協力してほしい、と』
「そうそう。無理なら仕方ないけど、ちょっと頼んでもらえない?」
『……分かった。ただ、練習に参加するとなると、そっちの練習方法を教えることになるけど、それは問題ないのか?』
「構わないよ」
陽人は即答した。
『そんなあっさり決めていいのか? 企業秘密みたいなものだとも思うが』
「ウチは日本代表みたいな『絶対に負けられない戦い』はないから。むしろ、あれこれ詮索される方が面倒だし、何なら深戸学院の方で公開してほしいくらいだよ」
負ける分には仕方がない。
しかし、一応、県代表である。「あいつらを出したのは間違いだった」とおおっぴらに言われることはさすがに避けたい。
「選手権が終わったら、また別の練習やるだけだし」
『……おまえ、よくそんなに練習のアイデア思いつくよなぁ。分かった。練習試合なり何なりの件は任せておけ。明日にでも監督から連絡させるよ』
「えっ、いや、連絡はいらないよ」
『それは無理だ。高踏の顧問に連絡しても話にならないからな。中身はおまえと監督とで詰めてもらうしかない』
「……分かった」
応じて電話を切った。
後田に「明日、向こうから連絡があるらしい」と言うや否や携帯が鳴った。知らない着信番号だ。
「もしもし?」
『深戸学院の佐藤です』
「あ、こんにちは……」
あまりにも早い折り返しだ。
『谷端から聞いたけれど、安井や下田に来てほしいって?』
「はい。厚かましい話ではあるのですが、全国で試合をすることを考えると、ウチの中だけで練習しているだけでは難しいかなというのがありまして……」
『その2人を連れていけばいいのかな?』
「率直に言うと、5、6人くらいは来てもらいたいですが、まあ、お願いする側ですので……」
あまり厚かましく言ってもいられない。
『その点は大丈夫だろう。3年はこの前の準決勝が最後の試合だったし、君達の練習にも興味を持っているはずだ。そうだねぇ、次の土日でいいかな?』
「土曜日は市内で別の予定がありまして」
『では日曜日と、行けそうなら金曜日にも行くようにするよ。ただ、私も別の予定があるから、多分コーチの津下が率いていて、道案内として谷端がやってくるだろうと思う』
「分かりました。ありがとうございます」
この場にはいないが、陽人は頭を下げて電話を切った。
ひとまず、全国を見据えた練習にはメドが立ちそうであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます