10月22日 16:16
北日本短大付属の試合が終了後、何人かは刺激を受けたらしい。
「もう一回ミニゲームやろう」
園口の呼びかけに多くが応じ、部室の外へと出ていった。
残ったのは陽人と後田の二人。
先程まで書いてもらったアンケートの回収と、他の道府県の代表校のメモ書きなどを始めると、後田が問いかけてきた。
「二年生部員のアンケートはどうする?」
「行く行かないも含めて、甲崎さんがやってくれているはず」
登録メンバーには二年生も3人入っている。
この3人に対して何かをしたことはない。お互いノータッチということで顔を合わせることもない。
ただ、県予選に関してはそれで支障がなかったが、全国となるとそうもいかない。旅費や部屋も必要となるからだ。
「来るのかな」
県予選に関してはスタンドにすら来なかったし、実際いても意味がない。
とはいえ、全国となると行きたいと思う者もいるかもしれない。
それについては何とも言えない。
戦力としては全くアテにならないが、いないとなると背番号その他調整しなければならないことも出てくる。
「空き番号は認めてくれないみたいだしね」
稲城は25番を好んでつけているが、上級生が来ないとなると1年は22人しかいないから、番号を変えるしかない。変わったから何か変わることもないが、変えずに済むなら同じ番号で行きたいだろう。
「30人いないチームって、ウチ以外に何校あるんだろう?」
「知らない。少子化だし、全くないことはないんじゃないか?」
そもそも試合に出るのが全員1年という時点で異色極まりないだろう。おまけに人数も少ないときたものだ。
「それこそ、初めて見る人には県のレベルを疑われかねない」
後田の言葉に陽人は苦笑する。
「俺も疑っているくらいだから。勝てたのは嬉しいけど、これでいいんだろうかって」
「そうだよなぁ。当事者ですらそうだから、周りはもっとそうなるだろうな」
「その疑いを払拭するためには、全国で良い試合をしろということになるけど……」
陽人はホワイトボードにスクジュールを記載していく。
「組み合わせが11月20日に決まって、ここから初戦に関しては想定できることになる。出るからには一つくらいは勝ちたい訳だけど、勝つと2試合目はサブ組になる。あまりにも悲惨な試合になった場合、勝つより文句を言われるかもしれない」
サブ組は県予選の強豪とはいえない相手にのみ勝ってきた。
全国に出てくる相手に勝てるのか、とても無理だろう。
「サブ、出すのか?」
「高踏には一年しかいないし、無理をしたくはない。翔馬や真人なら中1日でも平気かもしれないが、他は無理だろう」
「もし開幕だったら、二回戦まで中2日だ」
「その場合は考えるけど、中1日なら無理だろう。今日日、高校野球でも連投しない工夫が一般化しているし」
「……勝つチームとか、どうやっているんだろうな」
「前も言ったけど、2チーム3チーム用意するか、徹底的に省エネサッカーするしかないんじゃないか」
そういう点では、北日本短大付属のような戦い方は参考にはなりうる。守備に徹底的な自信を持ち、攻撃面の強弱をつけると言うやり方だ。
「ただ、ウチがそういうサッカーをしても能力差を露呈して負けるだけだから、結局は今まで通りやっていくしかない。現状では、それしかない」
ちょうどそのタイミングで、甲崎からの電話があった。
『もしもし、2年組だけど、行っていいなら東京に行きたいって』
「でも、全国でもスタンド観戦ですよ?」
『3人とも構わないって。まぁ、僕だって2年なら行っていると思う。肩身はせまいけど関東旅行ができるし、1試合も出てなくても後々まで「試合に出ることは出来ませんでしたが、高踏高校で全国に出て、背番号14をつけていました」って言える訳だからね』
さすがに受験も近いから3年は行けないけど、と付け加えるが。
『2年はラッキーだよ、本当に』
しみじみとした口調で言った。
『邪魔はしないようにさせるので、一応連れていってあげて』
「分かりました」
背番号のこともあるので、変えずに済むならありがたい。
学校とすれば、戦力にもならない部員に旅費その他を出すことになるが、それは学校の問題である。陽人の関与するところではない。
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