10月22日 13:02
午前中、部員はミニゲームで時間を潰していたようで、昼前に戻ってくる。
「あの3人、普通の中学生じゃなかったぞ」
戻ってきた林崎の表情を見ると、かなり振り回されたようだ。
「ニルディアのジュニアユースでやっているんだって」
「ジュニアユース? ということは、Jリーグを狙っているのか?」
「そうなんだよ。あの司城って奴は、昇格が決まっているのに進学する方向で考えているらしい」
「えぇぇ、参ったな」
彼らの正体に陽人は戸惑う。「参った」というのはまさしく本音であった。
全国まで進めたという事実は別にして、この半年余りで良いチームにはなった、と考えている。
しかし、あまり大きな期待を寄せられるのも困る。プロ選手になりたいなんて考える者を育てるノウハウはない。
出来れば関わり合いになりたくない。
「詳しいことは聞いていないけど、3人ともかなり前向きだったし、試験が問題ないなら来るんじゃないかな」
「うーん、そうか……、試験をパスしたなら仕方ないな」
そういう点では、高踏が誰でも簡単に入れる学校でない点は有難いのかもしれない。
仮に選手としてダメだったとしても、違う道を模索することができるからだ。
昼食時に午後の予定を話す。
「13時5分から北日本が決勝やるからここで観ようと思う。その後、アンケートを書いて今日は終わりだ」
「アンケート?」
「全国大会だから選手名鑑とか出るだろ? そこに書いてあるやつ」
「あぁ、あれね。祝勝会はいつやるんだ?」
「土曜日。午後までに市内の大溝さんのいるジムまで行って、そこで少しトレーニングして夕方から」
「トレーニング? ジムの利用代かかるのか?」
「かからない。高踏が利用しているって写真出す代わりに、食事とかその辺はサービスしてくれるらしい。関東にも系列の人がいるらしいから、全国大会中も食事は出してくれるって」
「ほう。まあ、大溝さんのいるところなら安心か」
「ホテルは校長が手配するから、任せておくつもりだ。そもそもホテルの予約をしたことがないし」
「校長先生なら大丈夫かな。真田先生だと予約ミスして、行ってみたら部屋がなくてロビーで寝るなんてことになりそう」
最後の陸平の冗談には全員が笑ったが、本当にやりそうなだけにどこかぎこちない笑いでもあった。
そうこうしているうちに13時が近くなったので、テレビをつけた。
「おっ、あっちはJリーグでも使うスタジアムじゃないか」
「本当だ」
「というか、先週は俺達もこんな感じでテレビに映っていたわけか」
やっている側は何も思うことがないが、いざ実際に自分達と試合をした面々がテレビに映っていると不思議な感覚を覚えてしまう。
すぐにスターティングメンバーと予想フォーメーション図が発表された。
スタメン図:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818023211740742033
『奥州第一は3-4-3。北日本短大付属は準々決勝、準決勝と採用した5-4-1で来るものと思われます』
「へえ、5バック? 練習試合では4バックだったけど、トップは5なのかな?」
最近では、5バックというのは中々ない。その言葉だけで守備的な響きがある。
「とはいえ、5バックの位置によっては3-6-1みたいな中盤重視の形になるかもしれないし、これは始まってみないと分からないだろうな」
「この棚倉って9番、俺達の試合の時にもいなかったっけ?」
颯田がスタメンにある棚倉秀幸を見て、首を傾げる。
「覚えていないなー。練習試合も含めて記録は卯月さんが管理しているけど、どこにあるか分からないし、探すのは面倒だし」
卯月はチームの仕事もするし、真田のアシスタントとしての仕事もしており、ある意味では一番多忙な存在である。さすがに今日は休みということになっている。
「17番の七瀬ってやつはいたぞ。練習試合では7番つけていて、七瀬だから7番かと思った記憶がある」
同じ7をつける瑞江が言う。
「石塚真治も出ていたよ。俺と名前が同じだから覚えている」
と言うのは戸狩だ。
「おいおい、名前でしか覚えていないのか? 俺は誰も覚えていないけど」
という立神の言葉はもっともで、練習試合の前半はチームとしてうまく戦えていたし、相手で目立った存在自体がいなかった。
試合全体を通じて、名前として覚えているのは、後半に出て来てハットトリックした下橋拓斗だけであるが、スタメンにその下橋の名前はない。
ただ、Bチームで後半から出て来た選手である。トップチームでスタメンというわけにはいかないだろう。
「こうしてみると、夏に試合した北日本はやっぱりBチームだったんだな」
陽人が感じたことを瑞江も口にした。
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(おまけ)北日本・選手権までその1
https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818023211740623446
※尚、練習試合には棚倉正幸(秀幸の弟)がおりました
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