10月17日 17:08

 火曜日の夕方。


 いつもであれば、授業の後、すぐに練習スタートとなるが、この日はサッカー部の記者会見が行われることになっていた。


 既に15時くらいから顧問の真田が校長とともに会見に出ており、その終了後に選手にも二、三、質問があるということで、合流することになっている。ために、全員制服姿のまま座っていた。


「まさか部室で自習とは……」


 颯田が苦笑しているように、練習をしようという気にもならないので、全員読書するなり参考書を解くといったことをしている。



 選手に対する質問が始まるのは17時予定となっている。


 その待ち時間の間に、陽人は石狩と武根の二人を呼んだ。


「決勝なんだけど、CBの一角だけ決まっていない」


 そう言われれば、お互い、自分達二人のどちらを起用するか迷っているのだ、ということで見当がつく。


「と言っても、この選択には作戦的な部分はない。お互いの長所短所については一緒に組む三人も分かりきっているし、本当にどっちでも良いと思っている。完全に五分五分だから、当日調子がより良い方を選ぶつもりだ」


 2人とも「分かった」と頷いた。その後、石狩が質問する。


「真治はサブなのか?」



 戸狩は準決勝で3得点をあげて勝利のけん引役となった。


 これまでの試合があまり注目されていなかっただけに、21点取っている瑞江と同じくらいのインパクトを放っている。瑞江同様にJリーグチームのスカウトが注目しているという実しやかな話もインターネット上に流れているらしい。


 また、園口、戸狩、鈴原、立神と技術の高い4人を二列目に並べた準決勝後半の布陣への評判も高い。最初からやっても良いのではないかという声もあるらしい。


「試合の途中から出て、大きく流れを変えられるのは、真治しかいないからね。展開が悪い時用に取っておくことになる。真治だけに限らず、後半の布陣がうまく行ったのは、前半から達樹、希仁、五樹がかき回して消耗させたから、という側面もある。決勝戦だからやり方を変える必要はないと思う」


 これは事実である。


 まず攻撃的な選択自体が多くない。戸狩を除くと、篠倉と櫛木がいるくらいで合計3人。篠倉と櫛木はボールを待って何かをするタイプだから、アクションを起こせる選択肢は戸狩しかない。


 もう1枚か2枚、オプションが欲しい、とも思う。



 ただし、手札が増えると今度は出番のない選手が出て来るという問題がある。


 現状、それはない。試合に出ていないのは、陽人と後田だけだ。


 陽人は監督役となった時点で半ばそうなると思っていたし、後田も元々自分の能力を理解して支援役としてついてきている。


 出たい選手は全員試合に出られている結果として、現在の雰囲気の良さが維持されているのは間違いない。


 オプションの少なさは現状受け入れるしかない。


 であるから、方針をあまり変えることなく進むしかないだろう。



 更に2、3、話をしているうちに時間が近づいてきたので、体育館の方に向かう。


 裏側から中に入る。壇上は誰もいない。奥の側に、真田や校長が座っており、手前側には30人くらいの記者が詰めかけていた。


「やばいな……、こんなに来ているんだ」


 一番取材などに慣れていそうな園口が弱気な発言をしたことで、全員の緊張感が高まる。



 教頭の指示を受けて、校長の後ろ側に並んでいる椅子に並んで座った。


 記者の一人が手をあげて、質疑応答を始める。


「まずはキャプテンの天宮君に聞きたいのですが、自主性の強いチームにおいてサポート役に回っていると聞いています。試合に出たいと思うことはないでしょうか?」


 最初からこの質問か、と思った。


 事前に聞いておらず、いきなり受けていたら面食らったであろう。


 聞かれると分かっていても、中々答えづらい質問である。


「試合に出たくないと言えば嘘になりますが、自分が試合に出て、達樹のように点を取ることはできませんし、怜喜のように守るのも不可能です。一番いいポジションが、チームのサポート役ですので、これが一番だと思っています」

「仮に全国に出ても、試合に出ることはないのでしょうか?」

「それは監督に聞いてください。……ぼろ負けしていればお情けで出してくれるかもしれませんが、それはそれで情けないので、出番がないのが一番良いことなのだろうと思っています」


 ここまでで二つ。あと一つは、強豪校を倒して自信がついたかどうかという質問だ。


 と思っていたら。


「最後の質問です。先ほど、校長先生と藤沖さんから、来年からは天宮君が監督になるという話を伺いましたが、これについてはどう思いますか?」

「いっ!?」


 思わず、変な声を出して真田と校長を見た。


 2人はメディア陣の奥の方に視線を向けている。


 そちらに視線を向けると、藤沖亮介がニッと笑っていた。

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