10月14日 12:10
後半が始まる前に、深戸学院の選手交代のアナウンスが流れる。
腕組みをしている藤沖が深戸学院のベンチに視線を向ける。佐藤は他の控え選手にも指示を出していた。それに従って、三人の選手が軽い準備運動を始める。
「キャプテンを替えるのは簡単な決断ではないだろうけれど、一番走っていたからねぇ」
「代わりの選手は予選で全然出番がない人ですね」
結菜がタブレットを取り出して、替わって入った門村について調べる。
「二列目の選手ですね。後半は0トップ気味にやるんですかね?」
「0トップという形というよりは、動ける選手を入れたんじゃないかな? 後半も同じく走ることになるだろうからね。後半は交代枠の使い道も重要になってくるだろう。高踏は後半開始時点では誰も替えないみたいだね」
藤沖の言う通り、高踏の交代はない。
ただし、控え選手は大半がアップを始めている。
「後半の深戸学院の出方を見てから、交代策を考えるということだろうか?」
「兄さんにそこまで深い考えはないと思います」
駆け引きでは勝てない、というのは陽人の口癖のようなものだ。
「では、二つか三つパターンを用意して、どれかをあてはめる。ただ、それだと選手が考えることが多くなるなぁ。どうするんだろうか。そこも楽しみではあるね」
下にいたら、気が気でない展開だけど。藤沖が付け加える。
後半開始時点のメンバー:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817330668233463432
後半がスタートした。
深戸学院の守備戦術は大きな変化がない。
それに対する高踏の回し方や追い方も変化はない。
「ふむ?」
「前半の終わり際と変化がないですね」
「深戸学院は、これで構わないだろう。瑞江がバテてくるまでリードしていればほぼOKだから。高踏はもう少し出た方が良いとは思うけど、リスクがあるのは確かだ。しばらくはこのままで行くのだろうか?」
「リスク云々とか考える人ではないんですけれど……」
「そうは言うけど、一点差だとね。何か起きるかもしれないって期待したくなるものなんだよ」
実感を込めた物言いをして、ピッチの方を見る。
結菜は首を傾げて、撮影している辻と我妻の方を向いた。
5分が過ぎた頃、深戸学院側のベンチも動き出した。
「鈴木さんですね。準々決勝では後半目立っていました」
背番号19の鈴木楊斌のアップが大きくなってくる。
「高踏も五人アップしているね。えっと、戸狩に、篠倉に、櫛木に、曽根本に、須貝か。まさか五人替えなんてことはないと思うけど……」
「須貝さんを入れるということは、鹿海さんを前線に上げるのでしょうか?」
「瑞江の前に、ターゲットマンを置くということなのかな。ただ、篠倉と鹿海を併用するんだろうか? ちょっと分からないなぁ。あの中から二人くらい出すのかな。おっと」
後半最初のチャンスは高踏だった。
この試合、何度か右サイドを上がっている立神が初めて深い位置まで切れ込んでクロスを送るが、市田に跳ね返される。
「深戸は中央を固めているからなぁ。悪いクロスじゃないけど、これだけだと厳しい。まあ、そのための鹿海や篠倉なのかもしれないけど、それで簡単に崩すのは難しいんじゃないかな」
ボールを確保した深戸学院は立神の背後のスペースを狙って蹴り込んだ。
「単純だし、ボールも長い」
藤沖が短くダメ出ししたように、ボールは長く伸びてラインを割ると思われた。
が、グラウンドの荒れた部分で跳ねたのか、蹴り出された瞬間に皆が予想したより遥かにボールのバウンドが短い。反対サイドの下田ほど走っていなかった榊原は真面目に追走していたため、ボールに追いついた。
そこに林崎がカバーに来る。ドリブルで中に切れ込まれることを恐れて、中を切っていた。サイドを突く分には構わないという構えだ。
反対サイドの下田は遅れている。中央の門村には陸平がついていて、走りこめそうなスペースに武根が戻っている。深戸の残りの面々は自陣に残っている。
榊原は左サイドを進むことを選択した。深い位置まで進み、中に一か八か折り返す。
クロスかと思いきや、ハイボールがゴール方向に向かう。
「あっ!」
ボールが上がった瞬間、鹿海はハイクロスと思い前に一歩前に出ていた。慌ててバックステップを踏んで飛び上がるが、ボールがその上を越す。
そのままゴール右上、ギリギリのところからサイドネットに突き刺さり、ゴールゾーンに落ちて転がる。
榊原は一瞬、動きを止めた後、唐突にガッツポーズを突きあげた。
深戸学院の選手達も疲れ果てているはずだが、一斉に榊原の方に走り寄る。
「一か八かのクロスがミスキックになって、そのまま枠に行ってしまったか……。これはついてないなぁ」
信じられないと首を振っている鹿海に視線を向け、藤沖がつぶやく。
蹴った本人もクロスのつもりだったから、鹿海はクロスと思って前に出ようとした。それがミスキックとなってしまい、しかも偶々ゴールの方に向かったために、頭を越される結果となってしまった。
「これは、運は深戸学院の方に行っているかな……」
後半9分、スコアは3-1となった。
ほぼ同時に、両ベンチが動く。
深戸学院サイドは鈴木が。
高踏サイドは、篠倉、櫛木、戸狩、曽根本の4人が第四審の確認を受けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます