10月8日 14:14
深戸学院の試合結果が出た頃には、稲穂公園でもスターティングメンバーが発表されている。
GK:①鹿海優貴
DF:⑨園口耀太、④林崎大地、⑮武根駆、⑪立神翔馬
MF:⑥陸平怜喜、⑳鈴原真人、⑰芦ケ原隆義
FW:㉕稲城希仁、⑦瑞江達樹、⑤颯田五樹
鉢花戦と同じメンバーである。
県の協会に2回戦のメンバー表をもらっていたのだろう。各校の偵察隊が発表されたメンバーと照らし合わせて頷いている。
「松葉商業は県一部では7位と微妙な順位だけれど、エースの緒形は得点ランキング2位だ」
宍原が松葉商業のスタメンを見て説明する。
「ラインの裏を抜け出して一気に決めるタイプだから、タイミングを間違えると失点の可能性がある。果たしてどう対応するかな」
「特に対応しないんじゃないですかね」
辻が首をひねりながら答えた。
「鉢花戦も特別なことは何もしませんでしたし、今回もわざわざ防ぐということはしないんじゃないでしょうか」
「確かに」
「今日も戸狩さんはベンチにもいませんね」
「本当だ。あいつは巧いから万一の時を考えるとちょっと痛いかもしれないな」
戸狩は能力面だけを考えてみれば、Aチームにいても全く不思議はない存在である。仮に試合時間が30分なら、前線の一角は戸狩になるだろう。
ただ、スタミナが明らかに劣るし、試合中何度も縦を狙うだけの馬力もない。長い時間で考えれば稲城と颯田という組み合わせになる。サブチームにゲームを作れる選手が少ないこともあり、うまいすみわけとなっていた。
「来週出られるなら、今週は戸狩をうまく隠せたなんてことになるかもしれないし、な」
「あぁ、確かに日程に余裕があれば戸狩さんはスーパーサブのような形で使えますよね」
そうこう話をしているうちに、試合開始時刻となった。
笛が吹かれ、松葉商業のキックオフで試合が始まる。
偵察組からどよめきの声が起きた。
松葉商業は県リーグ一部にも参加していることがあって、極端に下がった陣形を取ることはない。そのため、相手ボールなのに高踏がラインをハーフライン近くまであげる状況がより奇異に映る。
片方の陣にはゴールキーパーの鹿海だけ、しかもゴールの遥か前方まで出て来る状況に「そこまで上げるのか」、「こんなやり方で勝ってきたのか?」とざわざわとしはじめる。
辻は肩をすくめた。
「県一部リーグ2位の得点王がいても、全く関係ないですね」
「これは深戸とやる時も同じだろうな」
宍原も笑って応じる。
早くも高踏がボールを奪取し、短いスルーパスが通った。
瑞江が抜け出し、相手ゴールキーパーをかわしてあっさりと先制点をとる。
「あの7番、巧いな」
「鉢花から7点取ったんだろ? 巧いに決まっているだろ」
周囲がまた沸き立つ。
「瑞江もすっかり有名人になってしまったな」
「地域予選から何点取っているんだ、あいつ?」
「高木北戦は出ていなくて、漆原工業から6点、田坂戦は3点、竜山院も不出場、鉢花に7点で、昨日も不出場。4試合目でこれが17点目ですね」
「もうゲームの世界だな」
宍原が苦笑する。
その5分後には、今度は瑞江にひきつけられてDFが重なってしまい、空いたスペースに芦ケ原が飛び込んできて2点目が入る。
「緒形さんはまだボールにも触れていませんね」
「ロングボールでも構わないのだが、ポストになれるタイプじゃないから縦は無理。サイドから斜めのボールが得意だが、サイドのいい位置にボールが出ないから、緒方は何もできない」
そもそも2列目へのボールが中々入らないうえに、バイタルエリアへのコースは陸平がカットしてしまっている。
緒形は不満そうに両手をあげて、林崎と武根の間をウロウロしているだけである。
「コースが一つだと陸平が簡単に止める。その点ではウチには安井さんがいて、新木さんが下がって受けてサイドに出すという二通りのやり方がある。中央に注意が向けば直接下田さん、榊原さんと行けるわけで、何とかできるんじゃないかと思うが……」
宍原の目は既に準決勝に向かっているようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます