10月1日 15:56

 試合終了のホイッスルが鳴ると、鉢花高校の応援団は「やっと終わった」と罰から解放されたかのように安堵の様子となり、すごすごと出口の方へと向かっていく。


 それ以外の中立に近い面々は「すごいものを見た」、「まさかこんな展開になるとは」という様子で、それぞれSNSなどに感想を入力している。


 その様子を見ていた宍原も携帯電話でSNSを確認した。


「どんな感じですか?」


 結菜が問いかけると、首を斜めに傾ける。


「県の面々は反応しているが、全体的にはイマイチだな。鉢花は四強とは言っても全国に出たのは二回だし、大分前ということもあるから、よく分からないんだろう」

「つまり、全国区になるには、深戸学院に勝たないといけないわけですね」

「お~、怖いねぇ」


 宍原はおどけるように首をすくめる。


「とはいえ、この結果だとウチは全く油断なんてしないだろう。おっと」


 電話がかかってきたようだ。再度携帯電話を広げる。


「えぇ、えぇ。はい、終わりました。結局10-0ですね。はい、レポートは作ります」


 終わって切ると、参ったとばかりに両手を広げた。


「一人だけ見に来たがゆえに、レポート作成だってさ。ついてないよ、全く」

「何なら、試合映像コピーしていきます?」


 結菜はカメラを持っている辻佳彰を指さした。



 周囲がびっくりした。


「いや、それはまずいだろ?」


 話を向けられた宍原ですら、驚いている。


「映像を見ると、戦術丸わかりになるぞ。わざわざ他校に研究させることはないと思うが」


 宍原のもっともすぎる言葉に、全員が頷いている。


 相手にわざわざ自分達の手の内をばらす。考えられないことだ。


「でも、どうせいずれはバレるものでしょ。早いか遅いかの違いだけで。それなら早めに教えて対策させて、次を目指す方が良いと思います。それに研究して対策するということは、相手が止まってくれるわけなので、その間にこちらが前進し続ければいいわけですし」

「おぉー、結菜、何かカッコいいことを言っている」


 我妻が冷やかし半分、感心半分という反応を返す。結菜は「はっはっは」と胸を張って笑った後、本音も口にした。


「ま、あまり勝ち進まれて私達が受験しにくくなっても困るし。それにこのままだと他所が大勢練習を見に来るかもしれないじゃないですか。それも面倒だなぁと」

「あぁ、確かにそいつはあるかもね」


 藤沖も頷いた。


「これだけ鉢花に大勝してしまうと、県内だけでなく他所も見に来る可能性がある。そうなると落ち着いて練習できないかもしれないね」

「正直、天宮の練習は見ても参考にならんけどな」


 ボールを使わない練習が結構多いうえに、何をしているのか分からないことも多い。


「ただ、そうなると続けて来るし、質問に来るかもしれないから、余計にややこしいか」


 そう言って、「本当に貰っていいのか?」と尋ねる。辻も、「いいのかい?」という顔だ。


「うん、いいよ」

「分かった。でも、メモリーカード代くらいはもらいたいけど」


 辻の言葉に宍原が大きく何度も頷く。


「もちろんだ。それは建て替える」



 大溝が藤沖に問いかける。


「ブロのチームならこういうのは経費で落ちるんだろうが、高校サッカーのチームでも領収証で落ちるのか?」

「落ちませんけど、佐藤かコーチが立て替えますよ」


 そう言って、財布から一万円札を取り出して辻に渡そうとする。


「こちらの分も頼んでいい?」

「コピー自体は構わないですけど、メモリーカードがもうありません」


 辻が、我妻と結菜に「持っているか?」と尋ねたが、双方首を横に振る。


 藤沖は「仕方ないね」と首をすくめた。


「後で篤志に頼むとするか」

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