10月1日 13:55
10月1日、稲穂公園。
「おはよう、結菜ちゃん」
聞きなれた声に結菜達が振り返り、思わず笑顔を浮かべる。
二回戦のスタンドに、大溝夫妻の姿があった。隣には40くらいの痩せぎすの男もついてきている。
「おはようございます! 来てくれたんですね」
試合開始30分前だがスタンド全体はまあまあの入り……300人くらいは入っている。
その半分は鉢花高校の控え部員、応援団や関係者のようで、残りは近くを通ったファンのようだ。
ただし、高踏サイドの応援団は変わりがない。もうしばらくするとやってくるだろう宍原を含めて四人だ。
「ここの部員の家族は冷たいんだねぇ。一人も見に来ないのかい?」
大溝良子が苦笑交じりに言う。
「どうでしょう。大敗するかもしれないですし、誘ってないのかも」
結菜も苦笑しながら答える。確かに地域予選から五試合目、家族くらい見に来てもいいかもしれないのに一人も来ていない。
天宮家は両親共働きなので誘いにくい。
残りのメンバーは分からないが、あまりにも独自路線なので、何が起こるか分からない。あまり見せたくないという思いもあるのかもしれない。
5分ほどすると宍原がやってきた。
「お、今日は昨日より大分賑やかだな」
満員には程遠いが多少埋まっているスタンドを見て、感心するように頷く。
大溝夫妻と自己紹介をしあっている間に、ついてきていた痩せぎすの人物にも目が行く。
大溝は少し考えてから紹介した。
「彼が藤沖亮介だよ」
「藤沖亮介!?」
結菜達、中学生組と宍原が同時に声をあげた。
年内はリハビリにあてると聞いていたので、まさかスタンドに現れるとは思っていなかった。
とはいえ、年明けには監督となるだろう藤沖としては、この一戦は観戦しておくべき試合である。
ここまでの四試合は恐らく相手との力量差があった。戦い方どうこうを別にして、勝てた試合だろう。
しかし、この試合は県内四強の一角が相手で、こちらが強いということはないはずだ。そこから得られる課題を把握しておけば、復帰後速やかに課題克服に取り組めるだろう。
ただ、結菜には若干の不安もある。
課題が出たとして、それに取り組む素地が自分達にはあるのか、どうか。
全て藤沖がやってしまうのだとすると、それは面白くない。
少し不穏な時間が流れる。
それを打ち消したのは、場内アナウンスによる両校のスタメンとベンチメンバーの発表だ。
高踏高校
GK:①鹿海優貴
DF:⑨園口耀太、⑮武根駆、④林崎大地、⑪立神翔馬
MF:⑰蘆ケ原隆義、⑥陸平怜喜、⑳鈴原真人
FW:㉕稲城希仁、⑦瑞江達樹、⑤颯田五樹
鉢花高校
GK:⑫大本弘
DF:④山岡達郎、⑤佐藤基司、⑳伊東卓也、㉒高井光
MF:⑧高橋貴明、⑱小川辰之助、㉓三戸田充、㉖幸田俊平
FW:⑮斎藤義幸、㉔杉岡宗一郎
宍原が「うーん」と唸った。
「鉢花、塚本さんも石島さんも木原さんも不在かぁ。完全に落としてきているなぁ」
以前、動画で話していた中盤の四人は誰もいないし、背番号も軒並み大きい。
二軍に近いメンバーを出していることは誰の目にも明らかだ。
「竜山院に3-1だから、楽な相手と見たのかもしれないが、このメンバーだと何か起きるかもしれないなぁ」
宍原の言葉に藤沖が反応する。
「君は、この試合の結果をどう予想する?」
「えっ、予想ですか……?」
いきなり予想を聞かれた宍原は若干戸惑うが。
「それでも、3-1くらいで鉢花が勝つかなぁ……」
と自信なさげに答える。
「先輩はどうです? この後のご飯でも賭けませんか?」
藤沖は大溝夫妻にも尋ねた。こちらも「賭けは面白いが、そんなに詳しくないからなあ」と自信なさげで、夫妻とも3-2で鉢花と答えた。
順番的に、次は中学生三人衆だ。
結菜は「うーん」と唸りつつ。
「ま、まあ、身内なので2-1で高踏が勝つ! ということで」
と答えると、なるほどと言って頷く。
「藤沖、そう言うおまえさんはどうなると思っているんだ?」
他人に聞きまくって自分は何も言わない藤沖に、大溝が少しイラッとしたようだ。
藤沖は「あぁ」と頷いて、こともなげに言う。
「5-0で高踏が勝ちますよ」
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