9月4日 17:13
授業が終わった後、陽人は石狩のクラスに移動し、手招きで呼び出した。
「実はさ……」
昼休みに道明寺と篠倉らが話していたことを説明する。
すなわち、サブ組はレギュラー組以上に高いラインを敷く必要があるが、それにはDFの走力が不安。
レギュラー組はGK鹿海が速いうえ、陸平が広範囲のパスをカバーするので、サブ組ほどDFの走力を必要としないこと。
以上より、CBで一番俊足の石狩は、レギュラーよりサブの方が望まれること。
「ということなんだが、どうだろうか?」
石狩は頭をカリカリと掻いた。
「……まあ、陽人がそう言うのなら、従うしかないわな」
「悪いね。じゃあ、今日の紅白戦から駆と入れ替えで頼む」
レギュラーチームのメンバーを、サブチームに移すという負担のかかる話だが、予想外にすんなりと行き、ひとまず陽人は安心した。
そのまま、石狩とともに練習に向かう。
既に道明寺や陸平が全員で紅白戦をすることを言っていたようで、全員が準備している。
全員で紅白戦というのは初めてである。
登録は22人だが、監督の陽人と、第三GKの後田はサポート業務も多くやっているので、全員揃わないからだ。必然、7対6や5対4のミニゲームのような形のものが多くなる。
そうであるため、全員、いつも以上にやる気に満ちた顔をしていた。
「当たり前だけど、俺はサブ組で出る。あと、優貴はサブ組に入ってもらって、レギュラーチームのGKは雄大に頼む」
「分かった」
後田がポジションに走ろうとするのを「待った」と止めた。
「紅白戦とは言っても厳密な試合ではないから、ゴールを守る必要はないよ。雄大はこのあたりにいて、ルーズボールを繋いでくれ」
後田を普通のGKのポジションに置くと、鹿海の飛び出しが再現できない。そのためには、かなり前の方に置いておく必要がある。
ペナルティエリアとハーフラインの中間地点あたりに線を引いて、この辺と指さした。後田は背後を振り返って苦笑する。「この位置まで常時出ているのって、無茶苦茶無謀だな」と。
「前後半30分ずつでやってみよう。笛は卯月さんにお願いするよ」
と、笛を卯月に渡して、早速吹かれて試合が始まる。
「うわ!?」
ボールが来たと思った途端、稲城が猛然と詰めてきた。
後ろに回そうにも、そちらにも気配を感じたので少し強めに蹴りだすしかない。蹴りだして背後を見ると、瑞江の姿があった。
(希仁のプレッシングは、容赦ないな……)
ボクシングで追い込んだ相手を詰める動きも加味されているのだろう。ただ向かってくるだけでなく、速いのにサイドステップを踏みそうな怖さがある。ボールテクニックは低いが眼はいいので、カットも抜群である。
これではドリブルでかわすことも至難だろう。
しかも、その呼吸が飲めているのだろう。瑞江や園口も対応して動いている。
(希仁相手だとトラップするとスペースがなくなる。ダイレクトでつなぐしかないな)
実際、右サイドバックの位置にいる南羽は、サッカー歴が浅いがダイレクトに繋ごうとしている。練習で稲城とプレーする機会が多いので理解しているのだろう。精度に問題はあるが、アプローチとしてはそれしかない。
パスが少しずれると、鈴原と芦ケ原の二人の方に流れてしまう。それを避けようとした長めのパスは陸平の恰好のターゲットだ。
(……改めて相手側に入ると本当に厳しいな……)
こうなると可能性を見出すために、一気にFWをねらうロングボールでも出したくなる。前線に鹿海と篠倉、櫛木という長身かつフィジカルの強い三人がいるから、尚更だ。
しかし、石狩に替えて入った武根はその二人にも負けない高さがある。苦し紛れのロングボールならば簡単に対応してしまう。大きくずれると、GKの鹿海役の後田が処理をする。
(これは普通に攻めても無理だ。やはり基本に徹して、徹底的に速く短く繋いでいくしかない)
ラインはコンパクトにしないといけないし、体力的には大変だ。
しかし、全員それは練習できている。
ミスは出るし、相手ボールになると簡単にかわされて取れそうなところがない。スコアを図っていれば前半だけで6-0くらいになっているだろう。
それでも、自分達のプレーテンポが上がってきているという実感はあった。
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