9月4日 12:45

「それじゃ……おっと」


 更に話を続けそうだった道明寺が廊下を見て、口をつぐんだ。


「おや、尚と純とは珍しい取り合わせだね」


 食堂から戻って来た陸平が不思議そうな表情を向ける。


「サブ側のチームを強化する方法を考えていた」

「へえ、いいねえ。で、何か方法はある?」

「一つやってみたいことがあるのと、後はパスを出せる選手がもう一人欲しいという話にはなっているな」

「パス?」

「サブ側には尚と真治の二人しかいないから、できれば真人に入ってほしいというのが二人の要望だ」


 先ほど、道明寺が見せたメモを陸平にも見せる。


 陸平はなるほどね、と頷いた後。


「でも、陽人は試合に出ないから、そのポジションには真人なり耀太なり翔馬が入るんじゃない?」

「そういえばそうだ」


 レギュラーとサブとして分けた場合、陽人自身はサブチームの中盤に入る。


 しかし、サブチームが試合に出るとしても、陽人はベンチだ。空いたところにはレギュラー組から誰か入るしかなく、実際、高木北戦では鈴原が入っている。


 つまり、サブチームが試合をやるとしても、パスを出せる人間がもう一人出る公算が高い。


「試合はそうだが、紅白戦で、一泡吹かせたいんだよ」

「あぁ、なるほど。じゃあ、紅白戦やるならちょっと入れ替えてもいいんじゃない?」


 と言ってから、再度首を傾げる。


「でも、予選の間は二つチームを作ってそれぞれで固めた方が良いと思うけど、終わったら新人戦までまた時間があるし、レギュラーとサブの垣根はなくなるんじゃない?」


 レギュラーだ、サブだと争うのはこの一か月と予選で残っている間だけだ。


 それが終われば、二月の新人戦までスケジュールがない。二月まではまた状況が変わり、新しいレギュラーとサブチームが出来ているのではないか。


「そんなことは分かっている。この一か月以内に、一泡吹かせたいんだよ」

「それは失礼しました。その意気はいいよ、楽しみにしている」


 陸平は無邪気に笑った。




「だけどさ、予選が終わったら、藤沖監督が来るんだろ?」


 篠倉が話題を変えた。


「あ、そうか」


 陽人も含めて一瞬、沈黙する。


 確かにその通りで、甲崎が言うには、藤沖は年内を負傷の治療にあてるという話である。選手権予選が終わり、一からリスタートとなる新年からの復帰は全く妥当であった。


「そうかぁ、そういえばそうだったね」


 陸平も道明寺も一瞬、沈鬱な顔になる。


「最初は同級生が監督ってマジかよと思ったけれど、正直、そっちが当たり前になってしまったなぁ。今の状況から急に普通の監督がいる普通のチームになると、俺、そっちに戸惑いそう」

「藤沖監督がどんな監督か知らないけど、軍隊みたいなチームになると嫌だな」


 篠倉が言う。


「となると、竜山院はもちろん、鉢花にもなるべく良い試合をして、選手側の発言力を高めないといけないね」

「確かにそうだ。頼んだぞ、怜喜」

「うん?」

「そうだ。おまえがどれだけ相手のパスを止められるかに、かかっているんだからな」


 少し前まで、「陸平もパスを出せないかな」と言っていたことを完全に忘れたかのように、道明寺も篠倉も陸平のディフェンス能力を頼りにしだす。


 とはいえ、その通りだろう。


 鉢花相手にどれだけの試合ができるかは、陸平がどれだけキーパスを止めることができるかにかかっている。


 攻撃面まで期待するのは不可能な話で、それは立神、園口、そして瑞江に任せるしかない。

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