9月4日 12:35
「あいつは元々、護と一緒に愛東の中等部チームに入っていたんだ。もちろん、名古屋にある有力チームには劣るけど、この辺りでは一番強いところだ。そこに居続けたら、それこそ深戸学院や鳴峰館に誘われていたかもしれない」
「ということは、居続けなかったということか?」
道明寺の問いかけに、陽人は大きく頷く。
「あいつはディフェンスマインドが先に来るけれど、二人が言うように、技術面では10番も普通にできそうな存在だ。しかも護もいたから、監督としてみると中盤の守備的な役割を護に任せて、怜喜に攻めさせたいと思うのは不思議ではない」
「そうだろうな」
陸平を10番に置いたら、守備能力も高い攻撃的な中盤になりそうだ。
おそらく誰だってそうするだろうと道明寺も篠倉も頷いている。
「ただ、監督の説明の仕方が悪かったのか、怜喜は納得しなかったらしい。で、そこで監督が説得すれば良かったんだけど、面倒くさがったのか、親の方に話を持っていったらしいんだよな」
「それで?」
「親が怒った。陸平の父親は実業団で体操をやっていた人でサッカーとか分からないからさ。息子の方がサッカーのことをよく分かっているのに、何で親に説得させるんだ、親の権威で服従させろと言うのかと怒って、そんなチームは辞めてしまえ、となった」
「マジかよ」
「それで、以降は体操をやっていたらしい」
「あ~、だからあいつ、体幹が強いのか」
二人が納得したように頷いた。
「怜喜の守備は滅茶苦茶頭を使っている守備なわけで、それを崩したくないというのはあるんだろう。パスを回すことはできても、失うものも大きくなりそうだ」
陽人の説明に、二人は「それなら仕方ないか」という顔をする。
「起点になる奴がもう一人欲しいんだけどなぁ」
「確かに尚と真治の二人というのはキツイ。とはいえ、高踏はそこまでメンバーが揃うような強豪ではない。それこそ転校してきた奴が『ここならすぐにレギュラーが取れるだろうと思っていた』というようなとこだ」
「ぐへっ」
以前の自らの言葉を返され、道明寺が大きくのけぞる。
「そうだな。欲張ってもキリがない。とりあえず石狩の件だけは頼む」
「分かった。それは本人と話をしてみるよ」
話自体はそれで終わりになったが、陸平についての追加の質問が飛ぶ。
「ということは、陽人はそうした経緯を知っていて誘ったのか?」
「まさか」
二人は陽人のあっさりした問いに顔を見合わせる。
「でも、陽人が声をかけたから高踏に来たんだろ?」
「それは間違いないけど、知り合ったのは偶々だよ。中学二年の時にカードゲームの大会があって、そこにあいつも出ていたわけ。怜喜は色々考えてやるタイプで、俺もそうだったから、どっちから声かけたかは忘れたけど、面白い奴だと思っていたんだな。で、終わった後に話をしているうちにお互いにサッカーやっているって言うから、一緒に練習するようになった。カードはともかく、サッカーは相手にならなかったけど」
陽人は記憶の糸をたどりつつ説明する。「カードゲームかよ」と言いつつも、二人は納得する部分もあったようだ。「確かに、うちらの練習はカードゲーム的なところもあるわなぁ」と。
話は更に別人まで及ぶ。
「それじゃあ、達樹はどこで知ったんだ?」
「達樹? あいつは同じ中学だったから」
「サッカー部で?」
陽人は「いいや」と首を横に振る。
「体育の時のバスケ。あいつはバスケが好きだけど、身長がないから反動つけて飛ぼうとして結構危なかったんだよ。俺はあいつより背が高くてジャンプ力もあったし、俺の方がシュート決めていたから文句か何か言ったんだ。そんな無理せず俺にパスを回せよって」
「陽人が達樹に文句を言うって想像できないな」
「それには従っていたんだけど、今度はサッカーの授業の時にやり返してきた。天宮、俺に回したらサッカーは勝てるとか言うもんだから、本当かよって回したら、確かに勝てた」
「そりゃそうだな。でも、達樹はどこでサッカーうまくなったんだ?」
「あいつ、中一まで親の仕事でアメリカにいたから。アメリカ人に混ざって、ラテン系の連中と毎日のように試合していたらしい。英語を話す連中とスペイン語を話す連中で試合をする、的な」
二人が「あぁ」と声をあげた。
「だから、よくNBAの話をしているのか」
「そう。で、ラテン系の奴らは負けず嫌いだからガンガン蹴ってきて、ケガするから嫌になったらしい。日本に戻ってからもやる気はなかったらしいけど、あれだけ巧いともったいないし、大学はアメリカに行きたいらしいから、だったら高校の間くらい下手な俺達に教えてくれよって感じでサッカー部に入ることになった」
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